第5話 軽木の纏う諸事情04
「好きです! 付き合ってください!」
「謹んでごめんなさい」
春は青いけど、期も青い。
戦略過小。
戦気過多。
必然の結末でした。
ロイエンタールの表現の的確さには、時折舌を巻く。
「それじゃ」
ってなわけで四谷の恋慕事情は幕がおり、それから反省会と相成る。
「相変わらずモテるね」
屋上に繋がる階段の踊り場でジュースを飲んでいる僕らだった。
四谷の奢り。
告白劇に付き合わされた報酬だ。
「司馬もモテるでしょ?」
「そうかな?」
「ラインでコメント来るし」
「ある意味犯罪だよね」
リテラシーは何処に行った?
「まぁね」
ジュースを飲んで壁にもたれかかって四谷。
ふ、と疲労を乗せた吐息。
……どこか沈鬱で、けど浮遊するような、拠り所やつかみ所の希薄な空気が其処には在った。
「知らない人から来ると結構ビビるし」
「四谷でも?」
「あたしを何だと思ってるわけ?」
「ギャル」
「…………」
何故か睨まれました。
「何か?」
「何でもないけど」
ならなんで……そんなにも不満そうな表情で?
聞いても教えてくれそうもないので、黙ってるけど。
「久遠は?」
「空気読んで帰った」
ちなみに今は放課後です。
部活動の雑音が、遠くに聞こえる時間帯。
「少し付き合わない?」
「どこに」
「コーヒーでも」
「いいけどさ」
そんなわけで帰途にて寄り道。
バー形式のコーヒー店で喫茶する。
コーヒーを飲む。
それは四谷も同じか。
「司馬……さ」
四谷は、さっきの告白の断りより深刻……むしろ沈鬱な表情で僕の名を呼ぶ。
「これからどうするの?」
「ん?」
「両親亡くなられて」
「学校辞める」
「…………え……?」
不意を突いたらしい。
ディフェンスが甘い。
「何で?」
「金無いし」
「奨学金とか……」
「返せるあてのない借金してもね」
「マジバナ?」
「親戚一同にも嫌われておりまして」
まったくフォローを期待できないというのも、同じ血族ながら因果なことで。
「妹さんは?」
「だから養うためにも働かなきゃ」
「中卒だとそんなにないんじゃ……」
「中島みゆきの『ファイト!』だね」
あっはっは。
「保険とか遺産は?」
「関係者と擦り合わせなきゃいけないところだけど……まぁ何とか」
「何でそんな軽く言えんの?」
――ん?
四谷の声には少し怒気があった。
「頼れば良いじゃん。あたしでも久遠でも」
「迷惑かけたくないし」
「なんのための友情よ!」
「利用するのは好きじゃない」
「あたしでも……?」
「別に友人関係を続けるだけなら何処ででも出来るでしょ?」
スマホも解約しないとなぁ。
高いんだよね……通信費用。
カウンター席から外を見る。
ガラス窓から差す春光は鮮やか。
通る人々の忙しそうなこと。
誰しもが誰しもの不幸を共有するのなら、世界はもうちょっと僕に優しくあらせられるだろう。
「司馬は有り得ない」
「非常識という意味でなら確かにね」
「ホントソレ」
「何か?」
「道化演じるのが好きって言うか」
自分なりの突っ張りなんだけどな。
僕が悲しめばルリが心を痛める。
一番、弱みを見せてはいけないのが我が愛妹であり申して。
「妹さんも同意見?」
「さてね」
今はまだ死に浸っていたいだろう。
考えるまでの猶予期間。
ルリはルリらしく生きればいい。
お膳立ては兄の役目だ。
「マジ有り得ない」
だから何でよ?
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