最終話 またね。
「今日お別れしたら、また当分会えないんだよね……」
「そうだけどそれは仕方ないよ。 だって遠いし、なー姉受験生でしょ? しっかり勉強しないと」
「そうだけどさぁ……せっかく恋人になったのに、したことっていったら昨日の散歩だけだよ? あたしもっとアッキーとイチャイチャしたい!」
「そういわれてもなぁ……これはしょうがないよ。 毎日電話するからさ、それで許してよ」
「むぅ……スマホを持ってないのが憎い……! 受験で必要だからって言って、お母さんたちにスマホ買って貰おうかな? そしたら、毎日アッキーとも気兼ねなく電話できるし!」
「まぁ、そこはおばさん達とよく相談しないとね」
「は~い」
祭りの日から俺達の関係は変わり、恋人同士になった。
まぁ、でも恋人同士になったからといって、急になにかが変わるわけでもなく、俺達は今までとほぼ同じ感じで過ごしている。
昨日だって、まだ行ってない懐かしいところに二人で散歩に行っただけだ。
「う~離れたくないよアッキー」
なー姉ぇが俺にしがみつく。 そんななー姉ぇが可愛くて、俺は目一杯抱きしめてしまった。
「きゃ!」
「大丈夫だよなー姉ぇ。 ここに来るまでに時間とお金が結構かかるけど、来れないわけではないから。 だから、月に1回はこっちに来るようにするよ」
「本当?」
「本当だよ……俺もなー姉ぇに会えないのは寂しいし……」
「……ッ! アッキー大好き!」
「ちょ、ちょっとなー姉ぇ抱きしめすぎ! 胸がおもいっきり当たってるよ!」
「よいではないか~よいではないか~!」
俺がなー姉ぇに思いっきり抱きしめられていると、アナウンスが鳴る。
後少しで電車が到着しそうだ。
「うぅ……遂に来た」
「……そうだね」
俺達はゆっくり体を離す。 なー姉ぇの温かさが離れて、少し胸がチクッと痛んだ。
電車が刻一刻と近づいてくる。
そして、激しい音を出しながら徐々に止まり始めた。
「…………じゃあ、なー姉ぇ行くね」
俺はキャリーバックを引きながら歩こうとした。
「待ってアッキー!」
俺はなー姉ぇに呼ばれて振り返る。
すると、気づいた時にはなー姉ぇの顔がすぐ近くに来ていた。
少しして、俺の唇になー姉ぇの唇が重なる。 初めてのなー姉ぇからのキスだった。
時間はどれだけ経ったかは分からない。
でも、ただただ嬉しく、幸せだった。
「……アッキー。 あたしね、高校はアッキーが住んでいる街で一番頭が良いところ受けるよ。 そして、受かったら一人暮らしを始める。 これはもうお母さんたちにも言ってるんだ」
「え、そうなの!?」
「うん。 だから、約半年。 遠距離恋愛になってあまり会えないけど、待っててね?」
「うん……! うん…………!!」
「浮気なんてしてたらあたし嫌だからね? 絶対泣いちゃうんだから」
「浮気なんて絶対にしないよ!」
「ふふっ……ならばよし! それじゃあアッキー…………またね!!」
「————————またね、なー姉ぇ!!」
俺はなー姉ぇに押されて電車に乗り、ドアが閉まる。
少しずつ動き出す電車。
なー姉ぇは瞳に涙を浮かべながらも、とっても明るい笑顔で手を振って見送ってくれた。
それに対して俺は、見えないと分かっていても、なー姉ぇが見えなくなるまで手を振り返したのだった。
————————この1週間は退屈になると思っていた。
コンビニは近くにないし、スマホの電波も満足に飛んでいない。
俺はこんなところで1週間も生活ができるのかって思った。
でも、なー姉ぇのおかげで最高の1週間、夏休みになった。
俺はこの夏の出来事を絶対に忘れないだろう。
——————————————————この想い出は俺の宝物で、大事な財産だ。
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