5話 夏祭り。

 ドンドンと太鼓の音が聞こえ、楽しそうな老若男女の声が聞こえる。


 この町にはこんなに人が住んでいたのかと思うぐらい、多くの人で賑わっていた。


「凄いね、なー姉ぇ」


「う、うん!」


 俺は隣にいるなー姉ぇに話しかける。


 今日のなー姉ぇはいつものラフな格好ではなく、浴衣を着ていて、髪型はお団子ヘアーになっていた。


 紺色を基調にしていて、多くの向日葵が描かれている浴衣だ。


 向日葵の明るさ、そして紺色の大人っぽさが相まってとても似合っている。


 思わず家に迎えに行った時に、『綺麗だ……!』と言ってしまった。


 それを聞いたなー姉ぇは顔を真っ赤にして俯いてしまい、それを聞いていたおばさんに『おめかしして良かったわね奈緒!』とどつかれていた。


 ちなみに俺も今日の祭りのために甚平を着ている。


 それをおばさんとなー姉ぇに褒められたのは嬉しかったな。


「あ、見て見てなー姉ぇ! 綿あめあるよ! 二人で食べようよ!」


「え、う、うん!」


 俺は綿あめの屋台を見つけたので、なー姉ぇに声を掛ける。


 すると、なー姉ぇは挙動不審になりながらも俺の意見に賛成してくれた。


 ……今日ずっとなー姉ぇ可笑しいんだよな。


 俺が声を掛けても挙動不審だし、なにか覚悟を決めた顔をしたと思ったら、今度は顔が赤くなるし……どうしたんだろう?


 まぁ、でも美味しいもの食べたらなー姉ぇも元気になるでしょ!


「なー姉ぇ綿あめどうぞ!」


「あ、うん」


 俺は綿あめを渡す。


 なー姉ぇは手で落とさないようにお皿をつくりながら食べた。


「あふぁくておいふぃね!」


「でしょ~」


 良かった。 なー姉ぇに笑顔が戻っていつもの雰囲気に戻ったな。


 と思っていたが、なー姉ぇは綿あめを食べ終わると、手に持っていた棒をジッと見つめ始めた。


 ?? どうしたんだろう?


「どうしたのなー姉ぇ? 棒になにかついてる?」


「ううん。 なにもついてないよ……アッキーも綿あめ食べたよね?」


「うん。 食べたよ」


「な、ならあたしたち綿あめでか、かんせつつつつつ!!」


「ど、どうしたのなー姉ぇ!?」


 なー姉ぇは急に顔を真っ赤にして震え始める。 一体どうしたんだろう? 体調でも悪くなったのか?


「ア、 アッキーの馬鹿ぁ!」


「いったぁい!」


 俺は心配していると、なー姉ぇが持っていた巾着袋で脇腹を殴ってくる。


 力はあんまり入ってなかったけど、場所が場所だけに結構痛いぞ……。


「ア、 アッキー! ちょっとこっち来て!」


「なに? どうしたの?」


「いいから来て!」


 俺はなー姉ぇに手を握られる。 


 そして、連れてこられたのは坂道の上にある神社だった。


 ここは……。


「ここ懐かしいでしょ? 昔はよくここに来てお店屋さんとかヒーローごっこしたよね」


「覚えてる覚えてる! うわー懐かしいなぁ! あそこでブルーシート敷いておままごととかもしたよね」


「そ、そうだっけ?」


「したよ! しかも、当時俺が大事にしていた犬のぬいぐるみが旦那さん役でさ、なぜか浮気をしていて妻役のぬいぐるみに責められたんだぜ? 子どもながらになんてひどい設定だって思ったもん」


「うぐ……だってしょうがないじゃん。 当時昼ドラにハマってたんだからさぁ」


 昔話を掘り返すと、なー姉ぇは少しいじけてしまう。 ちょっといじりすぎたかな?


「ごめんってなー姉ぇ————————」


 俺が謝ろうとすると、いきなり大きな音が鳴った。


 俺は急いでそっちの方を向く。


 すると、少し遠いところで打ち上げ花火が上がっていた。


「今日さ、ちょっと離れたことろで花火大会があったんだ。 で、ここからならよく見えるから、アッキーをどうしてもここに連れてきたかったんだ」


「そうだったんだ……」


「綺麗でしょ?」


「うん。 見れて嬉しいよ!」


 花火なんていつ以来だろうか? 祭りには毎年行ってるけど、花火は当分見てなかったな。


 都会だと人が多いから近づかなかったけど、やっぱり花火って良いな……。


 俺は沢山打ち上げられる花火に目を奪われる。


 すると、なー姉ぇから声を掛けられた。


「ねぇ、アッキー……」


「ん? どうしたのなー姉ぇ……??」


 俺が後ろを振り返るとなー姉ぇは顔を真っ赤にして、覚悟を決めた顔で俺のことを見ていた。


 身体全体が震えていて、なんとなく緊張していることが伝わってくる。


「…………」


 俺はなにも喋ることができなかった。 普段は気にならない唾を飲む音がなぜか鮮明に聞こえた。


「すぅ~~はぁ~~……。 ヨシッ! アッキー聞いて!!!」


 なー姉ぇの声は震えていた。


 でも、なんとか俺になにかを伝えようとしているのが表情からでも分かった。


 そして、なー姉ぇは俺にこう言ったのだった。



















「—————アッキーのことが大好きです。 あたしと付き合ってください……!」

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