鞍下倫は世界を軍人と文民に分ける


晴れた夜、雑居ビルが並ぶ繁華街。


妖怪『鞍下倫くらしたりん』は、今日もミハルの前に崩れ落ちた。


「鞍下倫、もう人間を攻撃するのを止めろ。」


鞍下倫は、機械のように表情を変えない。


「黙れ。命令するのは俺。そして、馬鹿にするのも俺!」

「僕が馬鹿にするのが君?」

「畜生、主語がなかった…。とにかくそういう意味じゃねえ!」

「ちゃんと言えよ。」


「ミハル…、貴様のその態度…生意気!」

「君こそ偉そうじゃないか。」

「ふん。そうやっていきがっていられるのも今のうち。」

「そうかな。」


「そうだ。俺はいいことを思いつく…。

 お前の中にある『戦う人格』を破壊!」


鞍下倫は、その腕に内臓された大きなノコギリを回転させ、大きく振り上げて叫んだ。


「世界を!

軍人と!文民に!

分ける!!!!


お前も! 真っ二つだ!!!!!」


火花を飛び散らせ、甲高い機械音を放ち、それが最高潮に達すると、ノコギリは止まった。


鞍下倫は、しばし動きを止め、何事もなかった顔をしている。

そして立ち尽くしている。


ノコギリからアラート音が鳴った。


--------------テイギ シテクダサイ、テイギ シテクダサイ


「このポンコツ!」


鞍下倫の機械の身体を汗がつたう。


「文民…とは、軍人…とは……?」


鞍下倫の脳は、猛スピードで回転し、接続された膨大なデータにアクセスすると「辞書を使え」という指示が得られた。鞍下倫はすぐに手元の機械を操作して、辞書を開いた。しかし出てくるのは似たような別の言葉ばかり。


——————————————————

「馬鹿…。」

天界で華厳がつぶやいた。

「見ていられない。」

雪柊はそう続けると、しなやかに髪をなびかせて去った。

——————————————————


ミハルがため息をつく。


「鞍下倫、もうやめとけ。

 君は人間を知らない。

 戦争には君が行け。」


すると雑居ビルの間の路地から、黒い人影があらわれた。それは軍人の亡霊で、鞍下倫は腕を掴まれ、ともに暗がりへと消えた。



その日、人間界はその姿を静かにとどめた。

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