叙事 沙銀戦争(1)
生命を司る神の率いる軍勢は、視界を埋め尽くす妖魔を迎えていた。
兵士は戦った。神にとって、妖魔一人を倒すことは造作もない。しかし妖魔は減る数より多く増え続けていたから、その数はすでに数多となり、戦争が始まってから長い時が経っていた。
妖魔の死体は足をとり、血は足元をすべらせる。また、そこに紛れた不死の者は、兵士の防衛のための動きを止めた。
天まで届いた妖魔の死体の山は崩れ、雪崩となって、一つの砲塔を破壊した。腐敗を始めた妖魔の体が撒き散らした毒は、城内を汚染した。生命の神の指示によって、従えた治癒の神は、尽きんばかりの力でこれを浄化しつづけた。
あるとき天は暗くなり、塊となった無数の光が、三日のあいだ降り注いで、妖魔を光の中に消した。それは、美の女神の力がなしたものであった。
そのとき美の女神は、はるか上空の神界にいて、治癒の神の祈りを聞いて、塊の光を降り注がせたのだったが、その効果を知る前に、すぐに次の戦場から祈りがあって、光をそちらに向けた。
その光は、妖魔に操られて争いを続けていた人間の世界を照らした。
暗闇に包まれた人間界で、男と女は乱れ、敵も味方もわからなくなって殺し合いをしていたところ、光が差してお互いの姿を見たとき、人間は自らの行いを知り、泣いた。
愛の神が、石に包まれた長細いパンを落とすと、人間は二人で力を合わせてこれを引っ張り、二つに分け、パンを取り出して食べた。
数年後、人々は力を取り戻すと、妖魔との戦いに向けて準備を始めた。
そのころ、生命を司る神は、すでに妖魔が侵入できぬほど高く積みあがった妖魔の亡骸を前にして、治癒の神の力の限界が訪れた頃、あとのことを、調和の神が生み出した幻影に任せて、その戦場を離れることにした。残っていた妖魔は、あるともないとも知れぬ調和の神の幻影を追い争いを深め、その数は、増えた分だけ減って、勢力は弱くなっていた。
その戦場では、富を司る女神が最後に現れ、妖魔の魂を丁重に葬ったあと、その亡骸を貨幣に換えて、人間界に降らせた。
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