第5話

「僕は――僕も君に興味が湧いたんだ。君という、人間に」

 男はベッドから、降りた。

 キッチンから話し続ける。

「僕に新鮮な思考や言葉を突き刺す、君という――人を」

 男はミネラルウォーターのペットボトルを手に、戻る。

「真剣に考えたんだよ」

 水を一口、飲む。

「君は僕と一つになりたいと言い、僕もそうなりたいと思った。でも――」

 女は瞬きを一つ、した。

「でも、いつの君と一つになればいい? 瞬間、瞬間で変わる君の……今を留められない君の、今この時を留めておきたい僕の!」

 男は高揚して部屋を、歩く。

「今のこの君が、さっきの君になるのなら――」

 女は目を、閉じた。

「さっきの君は、今はもう死んでいるんだ。君の言う――無、になっている。……いや、ならなければならないんだよ」

 男の足が、止まる。

「分かるよね――君になら。でもね僕には……分からない。分からないんだよ……」

 男が再びベッドに、近付く。

「無、の君と一つになる……一つに……」

 男は女の躯に、跨る。

「ねえ……泥鰌(どじょう)って……知ってるかな?」

 女の目は頑なに、開かない。


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