第4話

 幾分痩せた躯は女の神経をも、麻痺させた。

 男の手が女の腹に、乗る。

「ああ……なんて素晴らしいんだろう」

 女は黙ったまま天井を、見ている。

「ねえ、君とはいろんな話をしたよね」

 男は膝を抱えて座っているに違いない――女はぼんやりと、思った。

「――人は死んだらどうなるのか……」

 女は男の声を、思い出す。

 あのとき男は。



 人は死んだら土に還るのかな

 昔は土葬していたくらいだから

 それとも天に昇って星になるのかな

 それとも――焼かれて灰になって……拾われたお骨以外は、不燃物ゴミとして処理されるのかな



 まるで小学生が夢見るように、語った。

 さらに女は、思い出した。

 私はあのとき。



 それは生きている人間のエゴだわ

 死後までもどこかに残っていたいという――愚かな思想

 死者はもういない――どこにも残らない

 ただ生き残っている人の、死者を冒涜するとしか思えない概念の中のみに残る

 死んだら――消滅する

 そこにあるのは――無

 無いものがあるのが――死

 なんだか刹那くて素敵じゃない?



 女は男の驚いた顔を、思い出す。



 ねえ、私たち――まったく違う思考をしてるわね

 私、あなたにとても興味が湧いてきたわ

 あなたと一つになって、あなたを感じてみたいの……



「僕は感動したよ。それから考えたんだ。君と一つになる――ということについて」

 女は目を微かに、見開いた。

 女は、知らなかった。


 男が性的不能者だという、ことを。


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