第2話

 男の声が、聞こえた。

 微かな空気の動きで男が近付いたのが、分かる。

 ベッドが、軋む。

 その歪みで――男が腰掛けたのだろうと女は、推測する。

 朦朧とする意識の欠片を集めてみる。

「人は生まれ変われる――そうは思わないか」

 男に言われ女は、考える。


 ――いつだったか、それは私の記憶と重なる



 男が髪を 撫でる。

「この髪だって、いつまでも今のままではない。少しずつ……ほんの少しずつ伸びている」



 ――その言葉は



「この爪だって、今この瞬間にも変化しているんだよ」

 男の手が女の指に、重なる。

「この瞬間だよ……分かるよね」



 ――この言葉も

 いつだったか、私の口から発した言葉たち



 女の細い指がぴくりと、動いた。

 男の視線が女の躯に、突き刺さる。

 構わず女は再びぼんやりと男の声を、聞く。

 ただ、聞いている。

 

 素敵――刹那……女が好んで羅列していた語を、吐息とともに男が並べ立てる。


 男の指が、離れる。

 そこには甘美な時の流れなどなく、ただ冷たい澱みが静かに揺れているだけであった。

 男の手がゆっくりと女の躯に、伸びる。

 女はただ天井を、見ていた。


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