第11話 アンダーノウスの教会。

 明け方。


 アンダーノウスの街に到着した二人。


 まだ商店街が開くのには時間が早いけれど、とりあえずセリーヌの靴をなんとかしなくてはとジル。

 下町の公園で朝市がやっていたので、そこにそういった物が無いかと探しにきてみたのだった。


「まあでも、ラギはちょっと隠れていた方がいいかもな」


 服はズタズタな布切れ。足は血だらけの皮帯。確かにこのまま人前に出るのは憚れる。


 そう思ったセリーヌ。


「じゃぁボク、そこの教会に行ってます」


 そう言って公園の端、木々が鬱蒼とするその奥に見える教会へと足を向けた。


 にしても、と。


 ジルさんにラギと呼ばれるとなんだかやっぱり兄さんを思い出す……。


 自分としてはラギと呼ばれるのは兄さんで慣れているから呼ばれることには抵抗があるわけではないけれど。


 それでも。


 やっぱり特別なのだ。この呼び名は自分にとって。


 そんなことをつらつら考えながら歩いて。


 確かこの街にはもっと中心部に立派な教会があったはず、そんな記憶も。


 この下町の教会は……、ほとんど無人でたまに流れ者が入り込んでたりもするって言ってたっけ、と。


 不審者が寝泊りしないよう警邏が回っているとは言ってたかな。


 確か……。ダントさん……。


 そんな昔の記憶を思い出しながら教会の扉を引いた。




 ああ。やっぱり今は誰も使ってないのか、ここ。


 入るなり蜘蛛の巣に引っかかったセリーヌ。


 ねっとりまとわりつくその糸を払って中に進む。


 木製の長椅子には埃がかぶっているし窓もなんだかくすんでる。


 祭壇の前に立った所で改めて周囲を見渡すと、壁や柱に刻まれた彫刻には機械神の姿が描かれて、物語を構成しているようだった。



 過去。


 荒廃したこの地に降り立った神々。


 再びこの地に人を生き物を増やし繁栄させようと尽力するその姿。


 そして。


 多くの神々がその姿をお隠しになった。


 残った十二神。


 最高神デウス。


 そして、その神の使い。使徒の姿。


 白銀の鎧。額に白銀のサークレットをつけ手には漆黒に鈍く光るロングソードを持った勇者の姿。


 なんだかジルさんみたいだな。


 そう思って。


 その壁画に一歩近づこうとした、その時。



 足元の床が抜け、セリーヌは落下した。


 あまりの突然の出来事に、声を上げることも出来なかった。

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