第10話 龍玉の魔・ギア。

「ちょっと休もうか?」


 リザードドラゴンは逃げていったけれど地竜達が落ち着くのにはもう少しかかりそうだ。


 セリーヌは目の前にふんわりと降り立ったジルのその姿に、目を奪われていた。


「気になる? これ」


 その鎧のような姿。全身を覆う龍の意匠の機械的な装甲に、目を見開いて。


「はい。すっごく綺麗……」


「キレイ、か。そんな風に言ってくれて嬉しいよ。まあでもこれはキレイって言うよりカッコイイ、じゃないかな?」


「あはは。そうかもです。カッコいいですジルさん」


「そうかそうか。ありがとなラギ」


 ジルはセリーヌの頭をくしゃくしゃっとなでて。


 よっこらと声を出してその場に座りあぐらをかいた。


「地竜が鎮まるまでもう少しかかるだろう。それまでにちょっと腹ごしらえだ。ほら。飯を食わねば何とかっていうだろ?」


 と、胸元から携帯食料を取り出してセリーヌに差し出すジル。


「リザードドラゴンの肉で作ったベーコンだ。うまいぞ?」


 そう言って自分の分の切れ端にガブリとかぶりつく。


 セリーヌも。


 その場にちょこんと座って貰った肉片にかぶりついた。


 久々に食べる肉の味。


 滲み出る旨みに満足して。




「俺がさっき使ったのはこれ、龍玉の魔・ギア ドラゴン・オプスニルっていうしろものだ」


 鎧、機装を解いたジル。右手の掌に虹色に鈍く光る珠を掲げて、言った。


「この魔・ギアというのはギアの上位の存在で、持ち主の魔力を制御しそれぞれに与えられた特殊な権能を行使する事ができる」


 龍玉がキラリと光る。


 と。


 そこに小さな龍の姿が現れた。


「ひゃ!」


 セリーヌが思わず小さく悲鳴をあげると。


「はは。悪い悪い。驚かせちまったか? これはマトリクス。龍のうつしみだ。心配しなくていいよ」


 ジルは右手に龍玉を握り込む。すると、その小さな龍はすっとその姿を消した。


「この魔・ギアは創造のオプスの上位機種になる。オプスが沢山集まって出来上がってるって言ってもいいか。基本、この世界に物質を創造するオプスだけれど、その能力を強化して指向性を持たせてあるから、こうしたうつしみから本体を創造する事もできる」


「あの、助けてくれた時のドラゴンがそうなの?」


「ああ。今のマトリクスを俺自身にかぶせ、合成する。そうする事によって通常の人では叶うことのない力と肉体をこの手にすることができるのさ」


 ああ。自分にもそんなチカラがあれば……。


 そうすれば、兄さんを助ける事ができるのに。話を聞きながらそんな事を思い浮かべるセリーヌ。


「人間の身体は弱いからな。セリーヌにも自分をマスターと認めてくれる魔・ギアが必要だな」


「マスターとみとめて、くれる?」


「魔・ギアは魔力を選ぶのさ。起動するのに消費する魔力の問題もあるが、それだけじゃ無い。相性みたいなものがあるのさ。たとえ魔・ギアを一時的に手放したとしても、魔・ギアの方がマスターの元に帰ろうとする。一度絆を結んだ魔・ギアとは愛想を尽かされない限り離れることはないんだ」


 不思議な話。


 キュア達は……、自然に何時も自分の周囲に居る、在る。


 そんな感じに自分の側に居てくれる。そんな存在なのかな。


 セリーヌはジルの話を聞きながら、そう感じていた。

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