第9話 市民権。
夜の街を駆け抜けるように進む。
「大丈夫か? 辛くなったら言えよ」
「ええ。大丈夫です。キュアが守ってくれてますから」
疲労も体の痛みもキュアが回復してくれる。自分でもこんなに走れるなんて思っていなかった。そうセリーヌ。
足には一応皮を巻いているけれど靴のようにはいかない。石を踏み怪我をすることもあるけれど、それをキュアがすぐ癒してくれるから。
出血した血まで洗い流せるわけではないからもうかなりゴワゴワになった皮帯ではあったけれど、それでもとにかく今夜中に人里まで行きたい。そんな気持ちで走っていた。
陽が登ればやはり人目もある。自分がドラゴンに連れ去られたという話があちらこちらに知れ渡れば、不審な行動をしているセリーヌなど簡単に判別されるかもしれない。
以前……。
家出をした事があった。
その時は、どうしたんだったか。
冒険者のふりをしたのだったかな。
男の子のふりをして。冒険者、市民権のない人々の中に混ざって一時過ごした事があった。
その時助けてくれた人。マハリ・アジャン。
彼女はどうしてるかな。
この世界では市民権の無い人間にまともな職など与えられることはない。
人は全て管理され、洗礼式を終え市民権を得る。そして能力に応じた学習が行われ、与えられた適職に就くのだ。
その判定は、少なくともこの国ではマザーによって行われる。
マザーの端末、マザークリスタルに触れる事で人はその適職と真名を得る。
と、そうセリーヌは聞いていた。
セリーヌの場合はラギ。ジークはラス。それが真名。
それでも。
この世界にはそんな市民権を持たない者がいる。
マザーによる支配から外れた人。
セリーヌにはそれが不思議だった。
何故? 全ての人にちゃんと市民権を与えてしまった方がいいだろうに、何故?
治安面でもこの市民権の無い人々の行動がたびたび問題になりその対策に苦労しているとジークフリードがこぼしていたのを聞いていた。
十五の時に家出をした時に出会った人々。
彼らは自分たちとなんら変わりのない、血の通った人間だった。
どうしてマザーは彼らを除外しようとするのだろう?
と。
そんなことを思い出しながら走っていた時。
「ラギ! お前はそのまま走って前方の岩陰に隠れろ! 地竜の群れだ!」
ジルがそう言ってその場に止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます