第8話 陸路。

「これからどうする?」


 そうジルに聞かれたセリーヌはこう即答した。


「兄さんを探します!」


 と。


 傷は癒したはず。あのあとギリアは一言も兄について語らなかった。で、あれば。


 あそこからなんとか逃げ出したのか? そうも思うけれど。


「逃げたのなら、どうしてお前を助けに来なかった?」


 と、ジル。


 確かに。


 あの兄の事、セリーヌが窮地に立たされていると知って何もせず手をこまねいている筈もない。


 では……。


 やはり捕まってしまったのか?


 処刑、されてしまったのか?


 でも、そうだとすればあのギリアがそう言わない筈もない、あれはそういう人だ。と、セリーヌは思うのだ。


 だとすると……。


「ギリアに……、聞きに行きます……」


「危険だ」


「でも……。もし兄さんが捕まっているなら助けたい……」


 復讐とか、そういうのを考えているわけじゃない。


 王を殺し国を奪ったギリア。そのことに対する憎しみがあるのかと言えば、そういうものも希薄だ。


 しかし……。


 兄だけは、兄さんだけは無事でいて欲しい。


 もし酷い目に遭わされているのなら助け出したい。


 そうでなければ。


 自分だけ助かったってなんにもならない。


 そういう思いが強かった。






「しょうがないな。本当は人間同士の争いに介入するのは禁じられてるんだが。ラギ、お前は別だ。みすみすお前が殺されるところなんて見たくは無いからな」


 ジルはそう、右手を頭にのせて、言った。


「手伝うよ。ただし、俺は人間は殺さないから。極力そういう場面は避けたい。それでもいいか?」


「ありがとうジル!」


 ジルの胸に抱きついたセリーヌ。


「まあ、ほんと、しょうがないな」


 空を見上げると月がそろそろ天空にかかる頃だった。


 満月の光が降るように注ぐ中、ジルは、こいつは俺が守ってやらなきゃな、と、そう決意した。




 ☆☆☆




 今夜は月が明るすぎた。


 龍玉の魔・ギアを使えば龍に変化できるのだけれど、と、ジルは逡巡する。


 ここにきた時と同じように龍に変化して飛ぶのならラギを運ぶことも可能だ。


 しかし、それでは目立ちすぎる。


「首都に戻るのなら、陸路を行くことになるが……、大丈夫か?」


「ええ。大丈夫です」


 これ以上迷惑をかけるわけにいかない。


 セリーヌのその瞳からは、そんな言葉が透けて見える。



(まあ俺は、歩いて行くのが大丈夫か? と、聞いたんだがな)


 そう苦笑して。


「じゃぁ。夜のうちにまずアンダーノウスの街を目指す。日中はそこで休み、また夜になったら人目を避けて出発しよう」

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