第7話 邂逅。

「おじさんはどこから来たんですか?」


「おじさんはひどいなあ。これでもまだ二十を過ぎたばかりなんだぜ」


 とはいうものの、口まで覆う髭はとても兄とふたつしか違わないなどとは、セリーヌには思えなかったのだが。


「俺の名はジル、ジル・コニアン。東の果てメコンから来た」


 メコン? 聞いたことが無い、かな。そう記憶を探るセリーヌ。


「まあ、知らないだろうな。機械神ニャルラト・ホテップの支配する暗黒大陸に存在する我が祖国メコン。主神、デウス・エクス・マキナを信仰するこの国とはほぼ接点が無かったから」


「遠い、の、ですか?」


「位相が、若干ずれてるのさ。まあ今となってはそれも……」


 ジルの顔に影が見える。


「ああ、あの嵐の龍、黒龍ブラドのやつ、まだ残ってやがる。こちとら瀕死だったっていうのにな」


 スクッと立ち上がるジル。


「本当にありがとうラギ坊。この借りはいつか返す。俺はまだあの黒龍を追いかけなきゃならんからこれで行くが、お前さんは良いマスターになれそうだ。そこまでキュアが集まってくる様なやつは見たことがないからな。頑張れよ!」


 そう言うとふわりと浮き上がり、ジル・コニアンはセリーヌには積乱雲にしか見えない遠くの黒い雲に向かって飛んでいった。


 人が空を飛ぶなんて。


 それも、不思議だったけれど。


 あの人、キュアが見えるんだ、と。


 そちらの方が不思議で。



 それはほんの小一時間の邂逅かいこうではあったのだけれど、セリーヌの心に深く刻まれた思い出となったのだった。




 ☆☆☆



「マシン=マスター?」


「ああ。太古の昔よりこの世界に満遍なく存在する太古の機械ギアを使役する。それがマシン=マスターさ。俺達のチカラっていうのは、この、太古の機械を自分の意識の中で感じ、そしてそれと一体となることによってその機械の力を引き出して力を行使するっていうことなんだ」


「すごいんだ。ジルさん」


「はは。お前さん、自分のチカラの事は何だと思ってる?」


「え?」


「王家のチカラ、機械使いのチカラ、それは俺のいうマシン=マスターの力そのものだって、そういう事だよ」


 ああ。


 この人とボクのチカラは同じもの、なのか。


 だから……。


「俺は、この世界の厄災、嵐と戦うために生きている。嵐の龍と戦うのが俺、というか今の俺、マシン=マスターの使命なのさ。人々を厄災龍より守ること、そのために戦ってる」


「じゃぁあの時も……」


 戦っていたのか。嵐の龍と。この人は、たった一人で、傷ついて……。


「優しいな、お前さんは。全部顔に出てるぞ」


 そう言ってジルはセリーヌの頭の上に右手を乗せ、くしゃくしゃっと撫でた。


「いや」


 頭に手をのせ嫌がるセリーヌに、


「あの時は本当に助かった。ラギ、お前は俺の命の恩人だよ」


 そう言って優しく笑った。

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