第5話 金色の龍。

 灼熱の砂に耐える顔。


 そんなのを見て楽しんでいるのだろうか? と、そう苦々しく思うセリーヌ。


 ただひたすら時が過ぎるのを待っていたセリーヌと対照的に、海岸の向こうからこちらを見ているギリア・デイソンの顔は笑っていた。



 機械神の使徒。ギアの中でも上位の存在、それがマザー。


 彼女は人類の繁栄のために機械神が遣わした存在、そう父に聞かされていた。


 そんな父はマザーに逆らうなんて事は考えもしなかった筈。なのに、何故?


 あのギリアはどうしてかマザーを味方にして今回の行動を起こしたのだろう。そうでなければ王宮の防衛システムが何も稼働せず漆黒機が縦横無尽に暴れ回るなんて真似、出来なかったはず。


(ボクが邪魔だったのなら、ボクだけを排除すれば済む話なのに)


 いつからか、自分がマザーに疎まれている、そう感じていた。


 夢の中で天使にそう聞かされたような気もしていたセリーヌ。


 あれは、キュアたちだったか。


 記憶が定かではないのだけれど。





 陽がだんだんと翳ってきて、海面もじわりじわりと上昇してきていた。


 足首が完全に水に浸かり、海岸との砂浜の道も海に沈んで。



「これまでか?」


 そうギリアの声が聞こえる。



「何も出来ずただ溺れるだけか。王家の血筋は役に立たなかったな」


 そう、吐き捨てるように言うギリア。



 もう誰もがこのままセリーヌは海に飲み込まれるのだろう。そう思ったその時。





 それまで雲一つ無かった空に、灰色の雲が急激に広がり、辺りが強烈な風にみまわれた。


 そして。


 嵐は唐突に現れた。


 雨が激しく地面を打ちつけ、人々から視界を奪う。


 薄闇の夕暮れがあっという間に紫色になり、そして。


 その紫に光る雲の間に龍が現れた。



 金色のドラゴン。


 真龍。


 神の使い、そうした言葉がふさわしい。そんな存在。



 雨が割れ、そして空を覆うように辺りが金色コンジキの粒子に包まれた。




 畏怖にこうべを垂れる民衆。腰を抜かしたかのように尻餅をつく大臣。


 ギリア・デイソンもまた、驚愕に目を見開いて。



 中洲に取り残され足首まで海水に浸されたセリーヌだけが、真っ直ぐにその龍の瞳をみる。




「ジル? ジルなの!?」


 幼い記憶にあるその瞳の色。


 何故か、そう感じる。


 エメラルドグリーンのその瞳は、彼女に懐かしい気持ちを思い出させて。



 ジルと呼ばれたその龍は、彼女にだけは優しい笑みを見せた。



「助けに来たよ。セリーヌ」


 そう声にはならない声で、言ったのだった。

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