第3話 機械使い。
カツカツカツ
地下牢に響く靴の音。
薄暗い石造りの通路をギリア・デイソンが供も連れず歩いていた。
最奥の牢に閉じ込めてあるセリーヌ・ラギ・レイズ。
魔力無効フィールドに包まれたこの地下牢は、空間転移なども妨害する特殊な魔術式で構築され。
それがたとえ百戦錬磨の魔導師であっても決して脱出することの出来ない堅牢な造りの牢であった。
その際奥まで辿り着いたギリアは牢の中程に横たわるセリーヌを睨め回す。
「そろそろ気が変わったか?」
音のないその暗闇に、ねっとりとしたその声がこもる。
「あなたの言いなりになることはありません」
伏せったまま、そう、もう何度目かの同じ返事を返すセリーヌ。
ギリアは苦々しい顔をして、苛立ちを隠すこともなく手に持った鞭を勢いよく地面に叩きつけ。
「処刑の日は明日だが……、直接手を下すのも無粋なのでな。お前は人民に対しての見せ物になって貰う事にした。せいぜいそれまで強がって見せてくれ」
それだけ言うと踵を返し元きた道を戻っていった。
にいさまは、ちゃんと脱出出来たのだろうか?
離れる間際キュアを残して来たから、あの子たちがちゃんとにいさまを回復させてくれているだろうとは信じている。
子供の頃、事故にあった。
レイズ王家に生まれはしたもののなんの能力にも目覚める事もなく。
優秀な兄さんの後ろでニコニコしているだけの、そんなちっぽけな存在だった。そう。その時までのセリーヌ、は。
あまり自己主張をしない子供だった彼女。
セリーヌと呼ばれるより兄さんにラギと呼ばれる方が嬉しくて。
女の子のように過ごすよりもまるで弟であるかのような軽装でいっつもジークの後ろをついて回った。
そんなセリーヌが巻き込まれたのは、
セントイプシロン女学院初等科に通う途中の十歳のセリーヌ。
暴走して制御の効かなくなったその
それは凄惨な事故だった。
馬車をなぎ倒しかなりの距離を引き摺ったあげくに止まった動力荷車。
その衝撃は凄まじく、馬車の扉はへこみ馬も息絶え、やはりオート・マタの御者もバラバラに弾け飛んで。
防弾仕様、アンチ魔法仕様を誇る王室御用達のその馬車ではあったけれど、一見乗っているものも無事では済まないだろうと思われた。
この時に、セリーヌは一度死んだのだと、そう思っている。
助かったのはギア達のおかげ。
この世界に満遍なく存在するギア。
この世界の神、【機械神】デウス・エクス・マキナのカケラ、子供達。
火のアーク。
水のバアル。
風のアウラ。
土のオプス。
これら四大元素のギアと、
時のエメラ。
漆黒のブラド。
金のキュア。
光のディン。
これらの四大天使のギア。
ギアは他にもあるのだけれど、主にこれらのギアはこの世界の空間の高次元の場所に丸まって隠れている。
大気と重なるように存在する別の次元に潜り込んで
物質の化学変化に干渉するアーク。
物質の温度変化に干渉するバアル。
空間の位相、位置エネルギーに干渉するアウラ。
そして、それらの物資そのもの、この空間に物質を創造し生み出すことのできるオプス。
時空を司るエメラ。
漆黒の、闇、重力を司るブラド。
全ての命の源。金のキュア。
光の、エネルギーそのものを司る、ディン。
王族に伝わる機械使いのチカラとはこれらのギアを使役する事をいう。
人々がまだ大自然とたたかい日々の生活の糧を得ていた頃。
王の一族は機械使いのチカラで自然をコントロールし、人々を災害から守って来た。
天候を操作する
そのチカラがあるからこそ、王は機械神の御使いだと、そう民衆に慕われたのだ。
事故にあったその時、セリーヌは天使を見た。
金のキュアが死の淵から彼女を救ってくれたのだった。
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