第2話 漆黒機。
ジークは泣きじゃくるセリーヌの頭を撫で、
「ここは危険だ。ラギは民衆に紛れ王宮から避難する様に」
と、言った。
このままこの王宮に居るのは危険だ。奴らはなぜか王族を狙っている。
ここにくる間にも漆黒機の数機と相対したジーク。
辛うじて落雷、電撃で退けはしたものの、これもそれほど回数が打てるものでもない。
残り残数は、一回か二回か。
とても全ての敵を排除するまでには至らない、か。
「いやだ! ボクも行く! 兄さんと一緒に!」
「女の子なんだよ、ラギは。危険なんだ。守り切れるかどうかもわからない……」
「でも。いや。一人で逃げるのは……」
「しょうがないな。じゃぁついてきなさい。王の間まで行くよ。あそこならいざとなれば脱出口もある」
「うん!」
ジークはセリーヌの手を引き急ぐ。
セリーヌの事をラギと呼ぶのはこの兄だけだ。
大好きな兄。そのそばを離れたく無かった。
足元に散らばる瓦礫を避けつつ、それでも全速力で王宮中心部まで急ぐ。
立ち込める砂煙、崩れゆく建物。その隙間をぬって。
たどり着いた時、王宮の間の前で戦っていたはずの近衛軍は姿を消してしまっていた。
「間に合わなかったか!」
ジークはあわてて扉を蹴破ると、中には王と、そして。
「ようこそ。おかえりジークフリードよ」
執政官、ギリア・デイソンが数名の私兵を連れ王の間に来ていた。
そして王を取り囲むように配置された兵。全て見ぬ顔だ。近衛はどうした?
ぐったりしているようにも見える王。何か変、か?
「王を守りにきてくれたのだなギリア執政官。礼を言う。しかし、近衛はどうした? ヨグを見なかったか?」
そうとりあえずギリアに尋ねるジーク。
ギリアは薄ら笑いを浮かべ、
「さあ、どうしたかな。外でまだ戦っているのではないか?」
と、外を指差す。
つられて振り返るジーク。
「バカめ!」
その一瞬の油断を見逃さず、ギリアはジークの背中を袈裟懸けに斬り付けた!
「兄様!」
崩れ落ちるジークを抱えるように抱きしめ、セリーヌは泣き叫ぶ。
死なせない! 死なせない、兄様!
「兄様、兄様、にいさまー!」
兄を抱くセリーヌの手から金色の粒子が湧き出て、背中の傷から体内に入っていった。
(お願い、キュア……)
まだ息がある。これなら……。
父様の吐息は感じない。この人たちに殺されたんだ!
でも。兄様だけ、は……。
「これでこの国は俺のもの。王も既に廃した。みな、引き揚げるぞ!」
そう踵を返すギリアだったが、
「この人殺し! どうしてこんな!」
そう泣きながら叫ぶセリーヌを睨め付け。
「おい! あの女を連行しろ。あれは後々利用価値もあるかも知れん」
と兵に命令した。
2、3人の兵士がざっとセリーヌの周りを取り囲むと、腕を取り乱暴に引き立たたせそのままギリアの後を追うように連行する。
「にいさん!」
泣きながら、声を張り上げ兄を呼ぶセリーヌ。そのセリーヌの悲痛な声が聞こえなくなった、その頃。
地面が、床が、盛り上がった。
十体以上はあっただろう。どうやってもぐりこんだのだろうか、漆黒機たちは床を持ち上げこの王の間に現れたのだった。
部屋中が振動し無数の漆黒機が現れるその最中、ジークフリードは意識を取り戻していた。
ギリアに背中から斬られた筈。致命傷であった事を証明するように、鎧の背中は斬り裂かれ床には大量の血が溢れていた。
しかし……。
その傷は治癒魔法、ギア・キュアによって既に塞がっているようだった。
この世界におけるギア、機械神のカケラたち。
太古から存在する魔法元素、ギア。この空間に満ちレイズ王家のチカラの源でもあるそれが、ジークを救ったのだ。
しかし……。
ギアはマスターの心に反応する筈。これは……、ラギ、か……。
今まで何故か王家のチカラを発現することのなかったラギ。彼女がやっとチカラを……。
ラギのお陰で一命をとりとめたらしいとは思うものの、この状況は嬉しくない、な。
ジークはそう吐き捨てる。
玉座の王ランベルは既に事切れている。
では、この漆黒機の狙いはこの私か!
連れ去られたと思われる妹を助けるためにも、ここで死ぬわけには行かないな。そう決意し。
ジークは精神を集中し、落雷を起こそうとした。
一族の秘伝。落雷の術。
その雷撃を手にした剣に纏い放つギアブレイク。この窮地を乗り越える為にはそれしかない、と。
しかしそれは叶わなかった。漆黒機の触手が一瞬はやくジークの右足に絡み付き、高くもち上げられてしまっていた。
ジークは右手に持った剣を上段に構え渾身の力を込め自分の足に絡み付いた触手を切ろうとしたが、剣は触手に突き刺さるだけで切り離すことはできなかった。
今度は自分の足を切りこの場を逃れようと剣をふりあげたとき、漆黒機の腹の口がぽっかりと開き、ジークはあっというまにのみこまれてしまった。
そして、漆黒機の集団は、さも自分達の仕事は終わったとでもいうように、一体、また一体と天井を突き抜け空高く飛び発っていったのだった。
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