7.謎のシンクロに笑う

 ふとケータイを手に取ると、いつの間にか友人からラインが来ていた。どうやら歯を磨いたりしていた時に来たらしい。確認して、そう云えば書き直した作品を読んで欲しいと云われていたのを思い出す。打ちかけた文章を保存してブラウザを最大化し、彼の小説のページを開いた。

 ウェブ小説を読むのは正直云って苦手である。それは画面の上だとどうしても目が文字の上を滑るからだ。紙の本だとそんな事は無いのに。だが嫌いな訳ではない。丁度テレビも切りの良い所だったので見るのをやめ、文章を目で追う事にした。

 ……。

 途中まで読んで、少し笑ってしまった。ナツミに容姿の似た天使の様な少女が出て来るからだ。金髪碧眼で、美しい顔。白い服に白い肌。少女、と書かれていなければ、ナツミとしか思えない描写だった。

 俺が笑った事を不審に思ったのか、ナツミが画面を覗き込んで来る。そっと問題のヶ所を指差せば、その文を読んだナツミも密やかに微笑んだ。

 ……。

 また少し読んで、笑ってしまう。にやにやとする俺につられる様に、ナツミはまたパソコンの画面を覗き込んだ。そして、主人公に金髪碧眼の少女が名付けられるシーンを見て、やはり微笑んだ。

「まるで私達みたいですね」

『俺は死ぬし、この主人公の様に世界を救ったりはしないけどな』

 そう打ち込むとナツミは黙り込む。そっとその顔を窺うと、どこか悲し気な表情をしている様に見えた。俺は小説の主人公と同じ様に、それは俺の気の所為に違いないと思った。

 ……。

「読み終わったー」

 ぐっと伸びをしながら独り言。二、三十分程かかった様だ。

「お疲れ様です」

 ナツミを見遣ると、淡い微笑みを浮かべてこちらを見ていた。パソコンに向き直り彼女に向けたメッセージを記す。

『俺にも何か特殊な力が目覚めたり芽生えたりしないかな。命がけの戦いはごめんだけど』

「無茶を云わないでください」

 一蹴されてしまった。残念。

 俺は短いメッセージを友人に送ると、昼寝までの間の暇潰しに、既に書いた文章の一部をカクヨムに投稿する事にした。

 タイトルを考えたりあらすじを考えたりする内に随分時間が経つ――かと思いきや、ほんの十分で終わってしまった。取り敢えず投稿時間は適当に予約しておこう。何となくいつも夕方くらいに投稿していたので、今回もその辺の時間に予約をした。

 投稿予約機能を使うのは初めてで少し緊張したが、多分ちゃんと出来ているだろう。駄目だったらあとで投稿し直せば良い。

 さてあとは昼寝までどうして時間を潰そうか。……話し相手も居る事だし、早めに部屋に引き上げても良いかもしれない。起きていても退屈と空腹に苛まれるだけであり、それはとても無駄な事だからだ。ナツミも退屈しているだろうし、それならケータイで時々SNSをチェックしながら、ナツミと話している方がお互い良い気がする。

『俺はそろそろ部屋に引き上げようと思うけど。ナツミも部屋に来るか』

「はい、ついて行きます」

 俺は宙に浮かぶナツミを引き連れて、居間をあとにした。

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