6.いつも通りの一日
その日、俺は天使と背中合わせで寝た。
美女と同衾なんて酷く緊張するかと思ったが、やはり俺の妄想でしかないのか、不思議と安らげた。いつもの様にケータイで適当な音楽をかけながら、珍しく速やかに眠りについたのだった。
翌朝、起きて真っ先に隣を確認する。……居た。白い布を纏った、金髪の美女。夢では無かったのだ。幻覚説は否定出来ないが。
ただ、俺は少し狭いなと感じながら眠り、目を覚ましたので、少なくとも俺にとっては実在するのだと、そう実感してしまった。
俺が起きた事でナツミも目を覚ました様だった。目元を擦り、上体を起こし、ぐっと伸びをする。どう見ても人間のそれだった。頭の上に発光する輪っかが浮いていなければ、だが。
ナツミは俺が既に起きていた事に気付くとこちらに向き直り、頭を下げる。
「おはようございます」
「……おはよう」
俺はまだちょっと寝惚けていたが、ナツミはすっかり目が覚めた様子だった。俺は寝転がったまま暫しケータイを操作してSNSを眺めるなどして目を覚ますと、ラインに届いていた友人からのメッセージに短く返信してから漸く万年床の上で立ち上がり部屋をあとにした。午前八時を過ぎた頃だった。
居間に降りると母が居た。今日は日曜なので仕事が休みなのだ。膝の不調で仕事を休んでいる父も居る。
兄も今日は休みの筈だが、どうやらまだ起きてはいない様だ。祖母は仏間で経を上げている。
俺は真っ先にパソコンに向かい電源を点けると、顔を洗い歯を磨く為に洗面所へ行った。そのあとはパソコンの前に座って、ひたすらネットサーフィンをしたり、動画を見たり、SNSをしたりした。と同時に、録画したテレビ番組を消費した。
一時間程経って、ずっと俺の背後に浮かんでいたナツミが口を開く。
「ずっとそうしているのですか」
俺はパソコン上にメモ帳を開くと、概ね、と打ち込んだ。続けて、もう少ししたら食事を摂る、と打つ。
ナツミはパソコン画面を覗き込み、そうですか、とだけ云うとまた俺の後ろでふわふわと浮かぶだけの仕事に戻った。俺はメモ帳を最小化した。
十時少し前、そろそろ飯にしようと思った所で、父がペペロンチーノを作ってくれた。多分自分で作った方が好みの味で美味いだろうが、文句を云わずに頂く。
結論から云えば辛過ぎた。そしてしょっぱかった。
そう思いながらパソコンに向き直り、昨日書きかけたテキストファイルを開き記していく。勿論ナツミとの会話も記憶を頼りに書き起こした。
「さっきから文字を見たり書いたりしてばかりですね。他の事はしないのですか」
俺は少し考えて、先程ナツミに返事をするのに使ったメモ帳を最大化して、返事を打った。
『今日は文章を打ちたいから、一日こんな感じ。昼を過ぎたら部屋で暫く眠る。気力のある時は何か作ったりもするが、そう云う日はどちらかと云えば少ない』
そこまで打ち、また少し考えて続きを打った。
『ところでお前の事をネットに公開しても良いのか。そもそもネットって分かる?』
「馬鹿にしないでください。我々はずっと人間を見詰めてきたのです。インターネットから時事問題、果ては政治家の腐敗具合までばっちり把握済みです」
ふふん、とナツミは胸を張った。歳は俺より少し若い二十代半ばくらいに見えていたが、精神年齢はもっと幼いのかもしれない。
「我々の事を書いて公開するのは構いません。事実を謳ったところで、どうせ殆どの人間は信じないでしょうし。ご自由にどうぞ」
『そっか。ところでナツミには年齢って概念あるのか』
「知ってはいますが、我々はわざわざ生まれてから何日だとか、何年だとか気にしませんし数えませんので、年齢を訊かれても困ります。あなたよりは歳上とだけ」
『ふーん』
「あっ訊いておいて興味無さげ!」
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