2.ネタの代わりに
兎に角何かを書いてみよう、と思った。思って、友人からラインが来た件をフェイク交じりに書いてみた。フェイクを交えたのは文章の体裁を整える為である。
友人とはカクヨムにて互いのアカウントを捕捉しているから、恐らくこれも読まれるだろう。なので極力嘘は書くまい。
と思ったがこれはあくまで小説なので、恐らくこのあと何か突拍子も無い事態だとか、恐ろしい出来事だとかが出て来るだろう。その筈だ。そうでないと――これはただの俺の日記になってしまう。それはいけない。余程の文豪でないと、そんな物は誰にも読んでもらえないのだ。
出力には入力が不可欠だ。そう思って人の作品を読んでみようとする。が、興味を惹かれる物を探す事すら億劫だった。もうだめぽ。
このままではいけない。もうすぐ食事の時間だ。その前に何か一展開……そう思った時だ。どぉん、と地響きすら伴う様な音が、庭から聞こえて来た。
数年前の冬、隣の家の屋根に積もり積もった雪が一斉に落ちて来た時の様だ、と思った。あれで庭木が半壊されたのだ。思いながら思わず腰を浮かしていた。
「どうした?」
仕事を休んだ父が居間に居て、仏間に居る俺を不思議そうに見ていた。
聞こえていない? そんな馬鹿な。
中途半端に尻を上げたまま、窓の外を見遣る。庭に異変は無い様に見えた。とすん、と椅子に座り直す。否、とすん、ではなくどすん、だ。こんな所で妙な見栄を張っても、先の友人にはバレてしまうのだった。
何の音だったんだろう、と思いながら俺はまたノートパソコンに向かった。そして先程の音の事を入力していく。すると今度は、こんこん、とノックの音が聞こえて来たのだった。
さては裏の畑を見に行った祖母が何か収穫して来たな、と思って顔を上げる。するとそこには天使が居た。
比喩では無い。正しく天使と云う他無い存在が、そこに居たのだ。
長い金髪は緩くウェーブを描き、その頭部の上には淡く発光する輪っかが浮かんでいる。長い睫毛に縁取られた瞳は綺麗に青く、肌は白磁の様に白く滑らかだ。その肌を覆う服は白い布を巻いているだけに見える。翼は無かった。
それが、腰を屈めて網戸越しに室内を覗き込む様にしながら、こんこん、こんこん、と窓の網戸でない部分をノックしていた。しかも若干地面から浮いている様に見える。
ぽかんとする。
「猫でも居たか?」
呑気な父の声は左から右へ耳を通り過ぎて行った。
俺はそれに答えず、そろそろと窓の方へ歩いて行った。網戸越しに外を見るふりをして、そっと、
「お前、誰? 何?」
と問いかけた。天使が顔を上げる。網戸越しに目が合った。
「あなたを迎えに来ました」
すっと脳に染み込む様な声だった。
「俺を?」
「はい」
「……死ぬって事」
「はい」
「……」
突然の事に頭がフリーズした。暫し天使と見詰めあう。天使が不思議そうに首を傾げた。
「……裏に回って。二階の窓。そこが俺の部屋だから」
そこで話そう、と云って、俺は自室へと上がって行った。
後ろで、父がもう晩飯だぞ、と云った。
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