ある日天使が舞い降りた
鴻桐葦岐
1.降らないネタ
「ネタ、降って来ないかなー」
椅子の背もたれをぎしっと鳴らしながら、俺は天井を見上げて呟いた。そのままぐっと伸びをして両手を突き上げる。
俺はしがないニートで、趣味で小説を書いている。何かの賞に応募した事もあったが、俺に商業で書ける程の才能は無く、ネット小説家をやってもうかれこれ十年は経つのだった。
俺には興味のある事が沢山あった。何かを創る事が好きだった。予算や収納の都合でやれない趣味も沢山あったが、概ね充実したニート生活を送っていた。趣味の成果で小銭を稼いだりもしたが、根本的に対人関係の構築に向いていない事にはとうに気付いていたので、なるべく外に出ず人と接さずの生活を送っていた。正しく自宅警備員だったのだ。
背もたれから背中離してノートパソコンのキーボードに指を置く。がしかし、指はそこから一歩たりとも動かなかった。
金を貰っている訳でもない。ただの趣味だ。だから書けなくても困りはしない。
ただ出力したくなった時に出力したい事を書き殴るだけ。
そんな創作生活をしていたものだから、二年書かない、なんて事もざらだった。
ただ、今年に入ってから中編程度の物を既に二作品書き上げていた。だから、おっ今年は調子が良いぞ、と俺は思っていた。思っていたのに。
「ネタが降って来ない!」
絶望である。
二年書かない、なんて事もざらだとは云ったが、それは一次創作に限った話だった。二次創作も含めれば最低でも月に一度は何かを書いていた。それがこの夏は、とんと書けていないのだ。思わず頭を掻き毟る。
何かを書きたい気持ちはある。書かなければと云う焦燥も多少はある。だが――だが、どうしてか書けなかった。
心当たりはある。二次創作にケチを付けられた事だ。それで何となく、書く気になれないのだ。
「何年ネット活動してんだよ……」
ネットで活動をしていれば、それにケチが付くのは良くある事だ。俺だって何度も嫌な思いをしてきた。けれどそれ以上に、創作意欲があったのだ。でも今はそれが無い。
てけてん。
唐突にケータイが鳴った。珍しい事だ。アプリの通知は毎日何かしらあるが、今の通知音はライン。相手が居なければ鳴らない通知である。
どれ、と思って見てみると、数少ないリアルの友人だった。少ないと云うか、まあ、唯一と云って差し支えないかもしれない。
「相談?」
自宅警備員に何を相談すると云うのか、短い文はただ相談がある旨だけを記していた。
何?と同じく短い文を返すと、ややあって相談内容が返って来た。要約すると小説の書き方についてだった。
この友人も小説を書いていた。趣味で、だと思うがあわよくばと思っている節がある。が、結果が中々伴わない。そう云った印象だった。
友人の小説は一通り読んでいたが、改めて他人の興味を引ける物か――読み返して思った事を指摘した。が、俺とてただ趣味で書いているだけの人間だ。あまり偉そうな事は云えない。ノウハウを学んだ訳でも、沢山の読者が居る訳でも無いのだ。
だが、あながち的外れでも無いだろう。
そんな内容を返して、再びノートパソコンと向き合った。
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