第5話 リヴァプールさんは課金しました

【お疲れさまでした。リヴァプールさんのおかげで勝てました】

【いいえ。皆さんの支援があってこそです。明日もまたよろしくお願いします】


どう考えてもリヴァプールさんの相手を寄せ付けない圧倒的な猛攻のおかげであるはずなのに、リヴァプールさんのチャットは謙虚だった。


リヴァプールさんは、大人しい性格の人なのだろうか。

でも戦闘モードの時のあの迫力は、まさに男の中の男。漢って感じだ。


やっぱりリヴァプールさんのリアルは、40代の工事現場のオラオラ系のおっさんなんだろうか。

気になって仕方がない。


リヴァプールさんのリアルの情報が欲しい。聞きたい。

でもネットゲームでリアルの個人情報を聞き出すのは、マナー違反だ。


誰か代わりに聞いてくれないだろうか。

ねぇ、ノンシュガーさんも気になるよね?

リヴァプールさんのリアル。


団長、俺の代わりに聞いてくださいよ。

もちろんそんな俺の願いは、ノンシュガーさんに届くはずもなく……。

結局、リヴァプールさんがアタッカーをするだけの火力のあるキャラクターを育成済みであるという情報を得ただけだった。

つまりリヴァプールさんが城と黒の戦争をやり込んでいるという情報しか得られなかった。

夜勤がある仕事をしていて、キャラクターを育成する時間がたっぷりある。

課金に関しては未知数だ。

めちゃくちゃ課金しているのか。それともガチャ引きが強いのか。

とにかくあれだけ新キャラを沢山持っているという事は、少なくとも課金しているはずだ。

リリース時からずっとプレイしている俺の直感だけど、ほぼ間違いなく課金しているはずだ。

くそう。聞きたい。

俺は我慢できなくなって、クラン内掲示板にチャットを打ち込んでいた。


【リヴァプールさん。火力凄いですね。ビックリしました。結構課金しているんですか?】


聞いてしまった。

我慢できなくなって聞いてしまった。

でも何円課金してる?なんていう直球で金額を訊ねるようないやらしい聞き方をしたわけじゃないから……大丈夫……だよね?


【いえ、そこまでは。今月は10万円くらい課金しました】


えっ……?じゅ、10万円!?

ちょ、ちょっと待ってくれ!!

頭が追い付かない。

10万円くらい課金して、”いえ、そこまでは”って発言をしている。

この発言からして、リヴァプールさんにとって10万円は大した金額じゃないって事だ。

これは、一般的な会社勤めの人間の発言じゃないぞ。

じゃあ俺のイメージである工事現場の40代のおっさん説が薄くなってきた。

分からない……。


これ以上聞くのは、なんだか鬱陶しい奴だと思われたくもないので……


【そうですか。高火力だったので課金してるのかなと思って気になって聞いてしまいました。明日も戦争頑張りましょう】


【はい。カミナリさん。明日もよろしくお願いします】


それから一週間が経った。

それは突然の事だった。


よろしくお願いします。

お疲れさまでした。

それ以外は、あまりチャットで発言しないリヴァプールさんが……


【明日からしばらくテレワークになりました。時間がたっぷりあるので、キャラクターの育成を頑張りたいと思います。主にブロッカーキャラクターの育成に励もうと思います。よろしくお願いします】


とチャットで発言したのだ。


テ、テレワーク!?

これでリヴァプールさんのリアルが工事現場の40代のおっさん説の線は、更に薄くなった。

薄くなったっていうか、これもう完全否定だろう。


リヴァプールさんの情報をまとめてみよう。

夜勤がある。テレワーク。1カ月で10万円の課金は、痛くない。


何なんだ。一体何なんだ。

リヴァプールさんは、何の仕事をしている人なんだ。


俺は、頭をフル回転させた。

そしてひとつの結論に達した。


そうだ。リヴァプールさんは、IT関係の社長なんだ。

プログラマーなら夜勤があったりテレワークがある。

更に10万円の課金なんて大したことなさそうな発言も理解できる。

きっと成功者なんだ。成金なんだ。

もしかするとリヴァプールに別荘も持っているのかもしれない。


俺の中でリヴァプールさんは、IT関係の社長になった。

これでスッキリした。

最近気になって夜もなかなか眠れなかったけど、これで明日から安眠できる。


そこから1カ月が経った。


【上司のミスを尻ぬぐいする為、台湾に出張に行ってきます。一週間ほど戦争に出られません。よろしくお願いします】


えっ……!?上司がいるの……?

会社員……?


リヴァプールさん。

あなたは一体何者なんだ。


これからも俺の推測は続いていく。

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リヴァプールさん 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu

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