第47話 女神よ
国王と会い言葉を交わしたあと、食事が用意されていた。
こんなにも豪華な料理は今まで食べたことがなかった。見た目もきれいだが、味も繊細でとても美味しかった。さすが城で出される料理だ。
エリンも気に入ったのか、美味しさで頬が緩んでいた。
無事に全てを終えることが出来た。国王は想像していたほど悪い人ではなかった。むしろ話しやすく、国民のことを考えている良き王だと思った。
着ていた礼服からいつもの装いに戻す。やっぱり堅苦しい服よりもこちらの方が落ち着く。
礼服は城の方で大切に保管してもらえるらしい。自分達では手入れも出来ないし、保管場所もないのでとても助かった。
隣を歩くエリンの表情は明るい。
「今日はとてもいい経験になったね」
「そうだな」
「ドレスも着れたし、豪華な食事も食べれたし」
「美味しかったよな」
「それに国王様が悪い人だったらどうしようかと思っていたけど、いい人で安心したよ」
リオンの話を聞いていたら、たしかにいいイメージはなかったが、実際は違った。それに色々と誤解が生じていたこともわかった。
「それに、新しいお家ももらえて良かったね。まさか家を貰えるなんて、びっくりだよ」
今回迷惑をかけたと言うことで家を貰った。
この国に来てからずっと宿で生活をしていた。いずれちゃんと家を買いたいと思い、コツコツとお金を貯めていた。家を貰えるとは考えても見なかったのでとても嬉しい。
これからその家を見にいくつもりだ。
これまで生活していた宿とギルドは、この国の門の近くに位置していたが、今回もらった家があるのは国の中心部の方だ。
これからギルドにいくには馬車が必須になるだろう。家の近くに馬車乗り場があるらしいので問題はない筈だ。
しばらくして家に到着した。
「お、おっきいね……」
貰った家を見て唖然としている。俺も似たような反応になっていると思う。予想していたよりもはるかに大きな家だ。二人で住むには大きすぎる。
「とにかく入ってみるか」
「うん」
誰も住んでいなかった筈だが、掃除が行き届いておりとても綺麗だ。それに家具がほとんど揃っているのですぐにでも生活を始めることが出来るだろう。
ちょっとした探検気分で家の中を歩き回っていると、エリンの弾んだ声が聞こえる。
「アレス見てこれ! すっごく大きなお風呂!」
泳げるのほど大きな風呂だ。大きいのは風呂だけではなかった。
寝室も広く、そこには巨大なベッド一つが置かれていた。
一人で寝るには大きすぎるし、二人でも大きい。
四、五人で寝れるくらいの大きさのベッドだ。
まぁ、広い分には寝やすいのでいいか……
それから一通り家の中を回ると、宿から荷物を取ってきた。
宿で生活していたため荷物はほとんどないので、引っ越しが楽だ。今日からここでの生活が始まる。
家を買うために貯めていたお金は、もう一軒家を買うときに取っておこう。冒険者はいろんな国で活動することができるので、拠点となる家を違う国で持っていてもいいだろう。
色々あった一日が終わった。大きな風呂とベッドが最高だった。
◆◆◆◆
翌日ギルドに足を運んだ俺たちは受付嬢によって呼び止められていた。
「アレス様、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「以前お話になっていた新しいパーティメンバーの件、良さそうな人がおりましたので声をかけておきました」
「本当ですか?」
リオン達がパーティを抜けたせいで手数が少なくなってしまった。エリンと話した結果、誰かパーティに加えると言う話になった。なのでギルドの方に協力をお願いしたのだ。良さそうな人がいれば声をかけてもらい、あとは自分達では話して決めるつもりだ。
頼んでからあまり時間が経っていない筈だが、もう見つけてくれたのか……
「最近違う国からやって来た人なので、まだパーティを組んでいないと思います。ずっとソロで活動して来たみたいなのですが、新しい場所でパーティを組んでみようと思い、ちょうどパーティを探していたようなのです」
それはなんともタイミングがいいな。
「実力も十分にあります。話をしていい人だと言うことも分かるのですが……」
少し表情が曇る。なんだ?
「少し変わった事を言う人なんです」
え?……会う前から不穏な感じなんですけど……
「それ以外は完璧だと思いますので、是非一度会ってみてはどうでしょうか?」
「まぁ、一応会ってみます」
せっかく声をかけてもらったのだから話をするくらいならいいだろう。
「わかりました。っと、丁度来たみたいです」
受付嬢の視線を辿るとそこには、美しい翡翠色の髪をした女性の姿があった。
芸術品のような整った顔立ちをしており、思わず見惚れてしまう。
周りにいた冒険者達も動きを止め彼女を食い入るように見ている。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「もしかして、貴方がパーティメンバーを探している人かしら?」
「はい、そうです」
「そう、よろしくね。私の名前はアウラ。女神よ」
ギルドがなんとも言えない空気に包まれる。受付嬢も苦笑いをしている。
もしかしたら、さっき受付嬢が言っていた変わった発言とは、この女神発言のことだろうか?
背中に嫌な汗をかく感じがする。
なぜだかわからないが、不思議と親近感が湧いてくる。なんの確証もないが、きっとこの人とは仲良くなれるような気がする。
頬が引き攣りそうになるのを必死に抑えながら一歩近づくと、笑顔で手を差し出す。
後ろからエリンの冷めた視線を感じる。
「こちらこそよろしく。俺の名前はアレスだ」
握手を交わす。ギルドはいい人を見つけて来てくれたみたいだな。神友として頑張っていこう。
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