第48話 新メンバー
ギルドからアウラという女性を紹介された俺たちは、ギルドに一室を借りて軽く自己紹介をしていた。
「改めて、俺の名前はアレスだ。よろしく」
「私はエリンです」
「アウラよ、よろしく。さっきも言ったけど私は女神なの」
「そうか」
エリンが困ったような顔をしているが、大丈夫だ。俺はお前の気持ちがわかるぞ。
「貴方は、私が女神だって言っても驚かないのね」
「いや、驚いている」
もちろん驚いているとも。俺以外に神だと名乗る人がいるなんて思っても見なかった。
きっと彼女も俺と同じように何かしら理由があるのだろう。正直なところ俺も理由を聞かれると困る。
彼女が話さないなら無理に聞かないほうがいいだろう。墓穴を掘る事になりかねない。あの日の出来事は、精神衛生上なるべく思い出さないようにしたい。
「私が女神だと言うとほとんどの人は、驚いた顔をしたり、距離をとったりするわ」
それはそうだろう。自分を神だという人なんて頭がおかしいと思われても仕方がない事だと思う。出来ることならば関わりたくないと思うのが自然な考えだと思う。だが、俺は違う!
「こっちに来てから私を受け入れてくれたのは貴方だけだわ」
そう言って寂しそうな表情を浮かべた。
いくら美人だからと言っても前にいた国ではいろんな人から距離を取られていたのだろう。
俺の場合は色々と偶然が重なったことと、もともと加護に干渉出来るという力のおかげでなんとか誤魔化すことができた。俺にリオンが割と狂信的だったことも理由の一つだろう。
「パーティを組む人が以前のように、受け入れてくれない人だったらと心配だったけど、ギルドが紹介してくれた人が貴方でよかったわ」
そう言って笑う姿は神秘的だった。
アウラの気持ちはすごくわかる。俺も神発言をしてから不安に襲われていた。
神の名を騙るという不敬とも取れる行動をしたことによって、もし加護が失われたらと思うととても焦った。その時は最善だと思っていたが、時間が経つと不安が出てきてしまった。
もし加護を失う事になれば原作と同じ運命を辿る事になっていただろう。
おまけにリオンが国王に神に会ったなどと言った事で、考えないようにしていたのにか思い出してしまった。
再び不安に襲われたが、アウラに会ったことで救われたような気持ちになった。
もし神がいるなら感謝したいくらいだ。
「大丈夫だ。俺たちはアウラから距離をとったりなんかしない。ありのままを受け入れる。俺たちのことを信じて欲しい」
「ぁ……う、うん……」
俺たちは神友になれる!
「ちょ、ちょっと!」
エリンが大きな声を上げると俺を引っ張る。
「何やってるの! 近いし、いきなり手を握るなんて!」
「わ、悪い」
完全に無意識だった。ついつい舞い上がってしまったようだ
「だ、大丈夫よ。そ、それに嫌では無かったわ……」
そう言って頬を赤らめると、視線を下にそらす。俺が握ってしまった手の部分をさすっている。
強く握りすぎてしまったかもしれない。
エリンが止めてくれて助かった。これから仲間になるかもしれないのに嫌われては困る。
それに運命的に出会うことができた神友だ。関係を悪くしたくはない。もし、パーティを組まなかったとしても、一緒に食事に行って話を出来るくらい仲良くなりたい。
俯いていたアウラが顔を上げると、しっかりと俺たちを見つめる。
「私は受け入れてくれた貴方達とパーティを組みたいわ」
「俺もだ」
「それじゃあ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
エリンが待ったをかける。
「ちょっと話しただけじゃわからないでしょ。一回くらい依頼を一緒にこなしてみないと」
少し機嫌が悪そうな表情でエリンが言う。
たしかにエリンの言う通りだ。神友の出現で冷静さを失っていたようだ。
俺の軽率な行動に腹を立てているのだろう。
「たしかにエリンの言う通りだわ。さすがアレスの恋人ね」
「こ、こ、こっ恋人!?」
「違うの? 仲が良さそうだったからてっきりそうだと思ったのだけれど……」
「わ、私とアレスは幼馴染みなの!」
「そうだったのね。勘違いして悪かったわ」
「べ、別に勘違いってわけでも……その……」
勢いを失ったエリンは俯き、もごもごと何か言っているが、小さすぎて何を言っているのかわからない。
さっきまで機嫌が悪かったようだが、今は少しだけ機嫌が良さそうだ。
「それじゃ早速依頼に向かおうか」
◆◆◆◆
受ける依頼は、ホブゴブリンの討伐だ。
近くにホブゴブリンの群れが出現したらしい。群の規模はかなり大きいらしく、緊急の依頼のようだ。ちょうどいいのでその依頼を受けることにした。
大きな群れなだけあって場所はすぐに見つけることができた。
「あれね。まず私の力を見て貰いたいわ」
「わかった」
アウラが一人で群れに近づいていく。周囲の風が動き出す。どんどん一箇所に集まっていき、巨大な風の塊が出現する。
腕を振り下ろすと、ホブゴブリンの群れに向けて向かっていき、そして空気の塊が弾け飛んだ。
爆音と爆風が広がる。砂埃が収まるとそこにはバラバラになったホブゴブリンの残骸が散らばったある。
十体以上いたはずのゴブリンの群れはたった一度の攻撃で全滅した。
エリンはその光景を唖然とした表情で眺めている。
簡単にやっているように見えるが、これほどの魔法も使えると言うことは、かなりの使い手のようだ。
モルナもかなりの実力者だったと言えるが、それ以上だと言うことは目の前の光景から明らかだ。
「どうかしら? 私の力は貴方達のお眼鏡にかなうかしら?」
「想像以上だ」
「うん」
パーティメンバーでいるエリンの意見を聞こうと思う。
「エリンはどう思う?」
「すごい力だったから、パーティに入ってくれれば間違いなく戦力向上につながると思う。私はアウラさんを入れる事に賛成。それに、悪い人では無いみたいだったし……」
俺も同じ意見だ。答えは出た。
「是非パーティに入って欲しい」
「ありがとう。これからよろしくね」
握手を交わす。
アウラがエリンの方に視線を向ける。
「これから一緒のパーティでやっていくのだから、『アウラさん』ではなくて『アウラ』と呼び捨てで呼んで欲しいわ」
「わかったよ。よろしく、アウラ」
二人も握手を交わす。
俺たちのパーティに強力な新メンバーが加わった。
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