第46話 謁見

 俺たちは城に来ていた。

 国王から招待状をもらっていて、ようやく会う機会が設けられたのだ。


 本当はもう少しだけ早く会う予定だったが、リオンたちの事で延期となっていた。国王なので一度予定が狂うと、時間を作るのが難しいのかもしれない。

 ようやく落ち着いたのか、こうして城に招待されたのだ。


 城のとある一室に連れてこられた俺は礼服に着替えさせられていた。

 以前服を作るにあたって採寸をしたので驚くほどぴったりだ。


「よくお似合いですよ、勇者様」


「あ、ありがとうございます」


 着替えを手伝ってくれたメイドに褒められる。お世辞だと分かっていても照れてしまう。


 大きな鏡の前で改めて確認する。こう言った堅苦しい格好は滅多にしないので、違和感がすごい。それになんだか気恥ずかしさを感じてしまう。


 物珍しさに鏡で自分の格好を見ていると、扉が開かれる。

 別室で着替えていたエリンが入ってきた。


「おぉ……」


 思わず声が出てしまうほど魅力的だった。


 青いドレスを身にまとい、スラリと伸びる腕はとても華奢で、いつも剣を振り回しているとは思えない。胸元が少し空いているせいで、いつもより胸の谷間が強調されている

 髪も整えられており、服の色に合わせた青い髪飾りが付いている。

 いつもと違うエリンの姿は、大人っぽくとても綺麗だった。


 恥ずかしそうにしながら近寄ってくる。


「どうかな?」


「とてもよく似合ってる」


「ふふ、ありがとう。アレスもかっこいいよ」


「どうも」


 恥ずかしさで素っ気ない返答になってしまった。我ながら子供っぽいなと思ってしまう。


「御二方、とてもよくお似合いです」


 ホーゼスさんが近づいてきた。


「国王様の準備が整いましたので、こちらに」


 ホーゼスさんの後をついていく。

 国王……リオンが憎んでいた人で実の父親だ。

 裏切ったリオンの言葉を全て真に受けるつもりはないが、警戒はしておいた方がいいだろう。


 巨大な扉の前に到着した。


「この先に国王様がおられます」


 騎士たちがその大きな扉を開く。

 扉の向こうには豪華は景色が広がっており、一番奥には国王が座っていた。

 ホーゼスさんに連れられ、話ができる位置まで近づく。

 国王が口を開く。


「ご苦労だった」


「ありがとうございます」


 ホーゼスさんが頭を下げて応える。

 次に視線がこちらを向く。


「よく来てくれた。こうやって会うまでに時間がかかって申し訳ない。早速、話を始めたいのだが、その前に……」


 もう一度俺とエリンの目をしっかり見る。


「今回の件、息子が多大な迷惑をかけた。申し訳なかった」


 そう言って頭を下げた。

 予想外の行動に一瞬思考が鈍る。リオンの話とは違う人物像に混乱してしまう。エリンも目を見開いている。


「あ、頭をあげてください。謝罪を受け入れますらっ」


 慌てて言葉を発する。一国の王が頭を下げることと、その辺の人が頭を下げるのとでは意味が違いすぎる。

 それでも頭を下げると言うことは王の責任――いや、父親としての責任を感じたからかもしれない。


「ありがとう」


 頭をあげた国王が安心したように笑う。


 リオンから聞いていたものとは随分違うな……


「今回、リオンを其方のパーティに入れるように指示したのは、私なのだ」


「え?」


「良かれと思ってやったのだが……私はあいつのことを何も理解していなかったのだな……」


 悲しそうな表情だ。


「話を聞かせて貰えますか?」


「もちろんだ」


 そう言って話し出した。


「私はとある女性を愛した。身分が違いすぎたが、そんなことは関係ないほど愛していた。その女性との間にできた子がリオンだ」


 身分を気にしない人なのか? これもリオンの話とは違うな。


「リオンには半分平民の血が入っているため、必ずしも王族として国に身を捧げなくてもよかった。私は今の状況に不満など一切ない。良き国民に恵まれ、私を支えてくれる者たちも沢山いる。だが、一つだけわがままを言うならばもう少しだけ自由が欲しかった」


 昔を懐かしむような遠い目をしている。


「私は冒険者に憧れていた。世界を歩き自分の力で栄光を勝ち取る。そんな姿に心を奪われたのだ。だが、私は王族だ。国のためにこの身を尽くす義務がある。私にはすぎた夢だ」


 だが、と続ける


「リオンは違う。王族という枷に縛られる事なく、自由に生きる事ができた。それに加護を持っていたことも含め、私にはできなかった冒険者として栄光の道を歩くことも可能だ。だから、リオンが冒険者になると知ったとき手助けをしようと考えたのだ。勇者のパーティに入り功績を残せば英雄となれるだろう。だが、私の考えは間違っていたようだ。結果的にリオンを追い込む形となってしまった。何も理解してやれていなかった」


 悲しそうに目を伏せる。


「もっと会話するべきだったのだ。リオンがこの国を出ていく時、お互いの思いを吐き出すように話した。もっと早くに言葉を交わすべきだった。今となっては手遅れだがな……」


「話が出来たのなら、これから関係は変わっていくと思いますよ」


「そうだと良いがな。リオンと話す機会を得ることができたのは勇者のお陰だ。裏切りなど殺されても文句は言えない。改めて感謝する」


「いえ、少しの間ですけど一緒に戦った仲間なので……」


「広い心を持っているのだな」


 実際はリオンを殺したことによるデメリットを考えたりした上で決めただけだ。別に心が広いというわけではない。

 まぁ、思考が違っても結果が同じだから誤差の範囲だろう。


 国王がふぅと、ため息をつく。

 国を出て行った息子のことが心配なのかもしれない。人に話すことで気持ちが楽になることもある。


「何か気になる事でもあるのですか?」


「ふむ、実はな、リオンが国を出る前に話した時、奇妙なことを言っていた事が気になっていてな」


「奇妙な事?」


「うむ……神に会った、と言っていたのだ」


 フグっ……


 変な声が出そうになってしまった。


「神に会い、道を示して貰ったらしいのだ。さらに慈悲をかけて貰ったとも……信じられない話だが、嘘をついているようにも見えなかった」


「そ、そうですか」


「目も血走っていて、正直怖いと思ったほどだ。その神にかなり執心のようだった。この事について其方はどう思う?」


「え、えーと……」


 なんて応えるのが正解なんだ?! その神は俺ですって言うのか? 無理に決まっている。


「もしそれが本当なら、素晴らしい出来事だと思います。神に出会えたのですから……きっとリオンにも神の祝福があるでしょう」


 考えた結果、お茶を濁す事にした。


「そうだと良いのだがな……こう言ってはなんだが、狂ってしまったのかと思ってしまった」


 そりゃ、神に会ったなんて訳のわからないことを言い出したら当然だ。それに最後にあった時若干狂っていたので、あながち間違いではないと思う。


 国王は話した事によって少しだけ落ち着いたような表情になる。それと引き換えに俺は精神的ダメージを負った。

 リオンが俺の名前を出さなかったことが唯一の救いかもしれない。


「話が長くなってしまったな。改めて其方達を歓迎しよう。我国へよく来てくれた。これからの活躍を期待している」


 俺とエリンは国王の言葉に頭を下げた。

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