第44話 先へ
想定外の展開に言葉を失っている。
目の前ではリオン達が頭を垂れて跪いている。
偶然が重なったせいで俺の神様プレイがより信憑性を増す展開になってしまった。良いことなのか怪しいところだ。
キーラはなんとなく理解できるが、リオンだけではなくモルナまでも一緒に跪いているのが意外だった。
もしかしたら、神という存在は俺が思っていたよりも大きな存在なのかもしれない。
教会の影響力が大きいことも納得できる。
ちょっと待てよ……そんなにも偉大な存在である神の名を騙ったのは許されないことなのでは?
非常にまずい状況になっているのかもしれない。
もし、神の名を騙った不敬な存在だとバレたら殺されるのではないだろうか?
そう考えると嫌な汗を背中にかく。思わず身震いしてしまいそうになってしまった。
とりあえず見ないフリをしよう。今は目の前の状況をどうするか考えなくては。
そんな事を考えていると、リオンが顔を上げ言葉を発する。
「アレス様、僕は愚かな行為をしてしまいました」
なんだかよく分からないが、話し出したので黙って聞くことにした。
「アレス様への裏切り、まさに神を裏切るという罪深く、決して許されないことをしてしまいました。全ては無知蒙昧であった僕の責です。どうかこの命を持って償わせてください」
そう言って首を差し出すように頭を下げる。リオンだけではなくモルナやキーラも同様だ。
モルナに視線を移すと、キングサーペントに襲われたときに漏らしたため股の部分が濡れている。
モルナは客観的に見れば美少女といえるだろう。そんな美少女をお漏らしした状態で跪かせるなんて、凄く変態っぽいな。
まさかこんな状況で動揺を誘ってくるとは……
頭を振り思考をリセットする。
さてどうしたものか。別に命まで奪おうとは思っていない。
確かに裏切られたが、ある程度覚悟していたからか精神的ダメージは少ない。それに裏切られたからと言ってエリンは無事だし、特に怪我を負わされたわけではないのだ。
そもそも、ここでリオン達を殺す方が良くないだろう。リオンは一応、国王の血族だ。
加えて言ってしまえば、裏切られたという証拠がない。この洞窟にはキングサーペントによって魔物が食い尽くされたため、魔物がいない。それにキングサーペントも倒してしまったので、俺が三人に手をかけたことは明白だ。殺しはなしだ。
だからといってこの三人を許すわけではない。同じパーティとしてやっていくつもりはない。
ただ、一つ問題がある。今は加護を剥奪した状態ということになっているが、一度戦えば嘘だということがバレてしまう。そうすれば俺の発言もはったりだったとバレ、こちらが不利になるかもしれない。
よし、いっそのこと思いっきり恩を売ってやるか。
深呼吸をし神様プレイを再開する。
「命まで奪うつもりはない」
「ですが、僕はアレス様に弓を引くという愚かな行為をしてしまいました。償いをする為には命を差し出す以外の方法など思いつきません」
「ならば、新たな道を示してやろう。俺は他の神よりも少しだけ慈悲深い」
「それはいったい……」
リオンがゴクリと喉を鳴らす。
「ほんとうに己の愚行に対する償いをする覚悟があるのか?」
「もちろんです。どんなことでもやり遂げて見せます」
モルナとキーラも頷いている。
「残りの人生を使って助けを求める者達へその手を差し伸べろ。この世界には助けを求める者達がたくさんいるのだ」
目を見開き、そしてゆっくりと頭を下げる。
「わかりました。アレス様が示してくださった道に、僕の人生の全てを捧げようと思います」
「他人のために人生を捧げるのは生半可な覚悟ではできない。厳しい道となるだろう」
「アレス様への愚行を考えましたら当然の事だと思います。償いの為に人生を捧げる事を誓います」
「ならば。最後にその後押しをしてやろう」
リオンやモルナ、キーラが不思議そうな視線をこちらに向ける。
跪くリオンの頭にそっと手を乗せる。そして加護を刺激するように干渉する。
おそらくなんだかよく分からないが、全身を違和感が襲ったという不思議な感覚を体験しているだろう。
普通に立っているだけでは風を感じないが、手で仰いだり、息を吹き掛けたりすると風を感じることができる。それと同じように加護を無理やり刺激をすれば違和感を感じることができる。
加護に干渉することが出来ると判明した頃は上手く干渉出来ず、エリンも違和感を感じると言っていた。
まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
「何をなされたのでしょうか?」
「剥奪した加護を与えた。その力を存分に償いの道で使うといい」
「ぁ……ぁ……」
言葉にならない呻き声をあげると、その瞳に涙が浮かぶ。
「あ、ありがとうございます。なんと慈悲深い神なんだ……アレス様に頂いた力、必ずや貴方の期待に応えられるように使っていきます」
同じようにモルナとキーラにも加護に干渉して、加護を与えたような錯覚を与える。
よしよし、俺が加護を与えたことにすれば、実際は奪う力などない事が、バレることはないだろう。神は加護を与える存在だ。この行動は神様プレイには必須だ。
この様子だと俺の言葉を疑ったりはしない筈だ。おそらくバレることはないだろう。
加護を失う事の恐怖を知っているからこそ、加護を与えられたという事実は彼らにってとても大きな恩となる筈だ。
「三人のこれからの行動に期待しよう。くれぐれも俺の期待を裏切らないでくれ」
「もちろんでございます」
そう言って三人は再び深く頭を下げた。
◆◆◆◆
リオン達の裏切りと俺の神様プレイの事件から数日の時が経過していた。
あの後ギルドに戻った俺たちは依頼達成の報告と同時に、パーティ解消の手続きを行なった。
殺すほど憎んでいないにしろ、これから先も一緒のパーティで活動していくのは流石にごめんだ。
それにリオン達の俺への態度を見ても、以前のような関係には戻れないだろう。
冗談でもなんでもなく本当に神様に出会った敬虔な信徒のような態度なのだ。一緒にいるのが息苦しくなるほど仰々しい態度だ。
俺が死ねと命令すればいう事を聞くのではないかと思うほどで、正直怖い。距離を置きたいのでパーティ解散は確定事項だ。
パーティ解散について表向きの理由は、リオン達三人が俺たちの実力についていくことが出来ない事。また、それぞれ違う目標ができた為、ここでそれぞれの道を歩むことにした。そんな感じだ。
あながち嘘ではないから良いだろう。
リオン達の裏切り行為がパーティ解散の理由である事を知っているのは、ギルドの上の立場の者と、国の上層部の一部の者だけとなっている。
仲間に裏切られた勇者というのも聞こえが悪く、これからの活動に支障をきたさない為にも、秘密にしておくのがいいだろう。
まぁ、国の上層部の人たちに負い目を感じさせる事ができたのならば十分だ。
それ以外の人が知っていても利益は生まれないだろう。
リオン達についてだが、三人は既にこの国から出て行った。パーティを解散して二日後に俺の元にやって来て、「罪を償うための旅に出ます」と言ってそのまま出て行ってしまった。
俺の言った通り、助けを求める人に手を差し伸べる為に出て行ったのだから応援くらいしようと思う。彼らが頑張れば救われる人もいるのだ。
彼らが道を踏み外さないように神に祈るばかりだ。
「アレス、依頼のことなんだけど……」
隣にいるエリンに話しかけられる。
「なんだ?」
「この前二人で依頼をこなしたけど、やっぱり人手が足りないと思う。最低でも魔法を使える人は一人いた方がいいな」
「そうなんだよなぁ」
パーティを解散して後悔はないが、困ったことが出てきた。
俺たち二人では戦力が心許ない。なんだかんだモルナの魔法は便利だった。やはり魔法を使える者を一人はパーティに入れたいというのが、俺たち二人の共通見解だ。
「新しいメンバーを早めに見つけないとね」
「そうだな」
転生前に読んだ一巻分の物語はリオン達の裏切りまで書かれていた。
エリンを助けてからここまでとても長かった。転生前の記憶を取り戻してから十年以上も経っているのだから当然か……
上手くいった部分もあれば、そうでない部分もある。
エリンも助けられたし、リオン達の裏切りにあったが、誰の血も流れることなく事態を収めることができた。
原作通りならエリンは死んでいるし、今頃の俺は片腕片足を失い、おまけに片目まで見えなくなる。そして村の人からは見放されているはずだった。
だが、実際はエリンは生きているし、俺の体は五体満足だ。誰も死ななかったのだ。十分な結果が得られたと思う。
少しだけ肩の荷が下りたような感じだ。
だが、まだ安心はできない。
原作の作者は主人公が嫌いなのかと疑いたくなるような悲惨な運命を、主人公に課したのだ。この先も何も起きず静穏な生活を送れるとは考えにくい。…
むしろ、この先の展開を知らない分ここからが本番だと言ってもいい。気を引き締めなくては…
「ボーッとして、どうしたの?」
エリンが不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
「なんでもない」
「そう?」
「なぁ、エリン」
「うん?」
「これからもよろしくな」
驚いたように目を開き、若干の沈黙ののちエリンが口を綻ばせる。
「ふふ、こちらこそよろしくね」
そう言って笑うエリンの姿は綺麗で眩しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
これにて三章完結となります!
ここまで読んでくださりありがとうございました。もやもやする展開が続いてしまいましたが、それでも読んでくださった読者の方に感謝です!
個人的にはこれまでにない、ざまぁ展開を書くことが出来たと思います。
アレス達の冒険も一区切りといったところです。
これからも応援よろしくお願いします!
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作者のモチベーションがぐーんと上がります!
四章も楽しんで貰えると嬉しいです!
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