第7話 訓練初日

 今日からアルデさんに戦い方を教えてもらう。

 準備は万全だ。沢山寝たし、朝ごはんもしっかりと食べだ。

 服だって動きやすいものだ。


「よし、今日からビシバシ鍛えてやるからな」


「「はい!」」


 隣には俺と同じように動きやすい服を着たエリンの姿がある。


「エリンも一緒にやるのか?」


「ダメなの?」


「いや、そういうわけじゃないけど……」


「アレスがやるなら私もやる。一人で遊んでもつまんないもん」


「デル達がいるじゃん」


 俺たちと似たような年齢の子供達は他にも何人かいる。その中で一番リーダーぽいやつがデルだ。いつも2、3人仲間を引き連れている。いわゆるガキ大将みたいな感じのやつだ。


 俺はエリンは親同士が仲がいいことから、よく一緒にいることが多い。だからデルのグループとあまり関わることがない。

 全く遊ばないというわけではないが、すでに出来上がっているグループに入るのはなかなかめんどくさい。エリンと一緒にいた方が気が楽だし。


「デル君? えー、嫌だよ」


 嫌って……デル達可哀想だな。


「だってデル君、私に意地悪なことするもん」


 あー……それはあれだよ。好きな子にいたずらしたくなっちゃうやつだ。

 なんでもいいから気になっている子に関わりたくて、男子がよくやるやつだ。


 エリンは可愛いからな……実際、デルだけじゃなくて他の男の子達もエリンのことが気になっていると思う。だから、エリンと仲の良い俺は肩身が狭い思いをしている。

 デル達と遊ぶ回数が極端に少ないのはそう言った理由もある。

 向こうはエリンと一緒に遊びたいみたいだけど……


「アレスと一緒の方が楽しいから、私も訓練する」


 そんなふうに言われて嫌な気はしない。


「じゃあ、一緒に訓練頑張るか」


「うん、がんばろー!」


 アルデさんが手に持っていた二本の剣を地面に置いた。 


「まずはこれからだ。持ってみろ」


 まさか初っ端から剣を使うとは思わなかった。

 剣の柄の部分を掴み、持ち上げようとする。


 重っ、剣重すぎだろ!


 力を入れ持ち上げるが、少ししか上がらない。剣の先端部分は地面に付いたままだ。

 まともに持つことすらできないのに、これを振り回すなんて出来ない。

 どこかの剣士が両手に剣を持ち、もう一本口で咥えて三刀流ってやっていたが無理だな。あれは、剣じゃなくて刀か。

まぁ、持ったことはないが、刀もかなりの重さがあるらしいから似たようなものか。

 かなりの力が必要になるな。

 隣ではエリンも剣の重さに苦戦している。


「よし、もう良いぞ。剣から手を離せ」


 アルデさんに言われるままに剣を地面へ置く。


「持ってみたらわかったと思うが、剣はとても重い。自由に振り回すためにも、まず体ができていないといけない」


 転生前は剣なんて持ったことがなかったから、剣が持てない可能性を全く考えていなかった。

 くそっ、時間がないってのに。


「剣の使い方を教える前に、まずは剣を振れるだけの筋肉をつけるところからだ。それにある程度体を鍛えないと怪我の原因にもなるしな」


「わかりました」


 いくら時間がなくても怪我をしたら本末転倒だ。


「まずは体力づくりからだ。村の中を走ってこい。そうだな……村の中を大きく5周だな。終わったら次だ」


 5周!? 

いくら小さな村と言っても人が住めるくらいには大きい。かなりの距離になる。


「エリン、苦しくなったらやめて良いからな」


「大丈夫。私、走るの好きだから」


 なぜか自信げに胸を張っている。


「始めるぞ。よーい、どん!」


 アルデさんの合図と共に走り出す。

 さっさと5周を走り終えてしまおう。

 正直走るのはあまり好きじゃないし……


 ◆◆◆◆


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 5周を走り終えたが、かなり疲れた。

 身体中から汗が吹き出しているし、足が棒になりそうだ。喉はカラカラに渇いている。


 アルデさんが持ってきてくれた水を浴びるように飲む。冷たい水が喉を通り抜け、心地良い。

 エリンも最後まで走り終えることができた。何故だか俺よりも余裕がありそうだ。

 なんでだよっ、釈然としない。


「二人ともよく頑張ったな。少し休んだら次は、腹筋と背筋だ。二人いることだし、上手く協力してやれよ」


「はい! 私からやりたい!」


 ほんと、なんでそんなに元気なの?


「嬢ちゃんはまだまだ元気だな! それに比べて坊主は……」


 物凄い敗北感だ。

 中学、高校はテニス部だったし、卒業してからもジムに行ったりとそれなりに体を鍛えていた。転生前だったらこれくらいなんの問題もなくできるのに……


「はぁ、はぁ、俺も……まだまだ……いけますっ」


「嬢ちゃんに負けないように頑張れよ」


「ほらアレス、早く私の足を押さえてよ!」


 まだ走り終わったばかりだと言うのにもう始めるのか……体力お化けだな。

 俺は、一切休憩する気のないエリンの足を押さえる。


「数えてね」


「わかったよ。いーち、にーい、さーん――」


 走ったばかりなのにも関わらず、エリンはいいペースで回数を増やしていく。最終的に100回まで続けていた。

 本当にどうなっているの?

 俺にも意地がある。エリンが100回までやったなら俺は150回だっ。途中ものすごく辛いタイミングがあるのだが、それを終えると一気に楽になる。不思議だ。


 筋トレが終わる頃には上半身も下半身痛いし、体力ももうない。


「最後にもう一度村の中を走ったら今日の訓練はお終いだ。さぁ、行ってこい」


 まだ走らせるのかよ。

 そんなことを思っていると、すでにエリンは走り出していた。


「お、おい!」


「早くしないと置いて行っちゃうよっ」


 アルデさんはこちらをニヤニヤしながら見ている。くそっ

 俺は最後の力を振り絞って走り出した。


 ◆◆◆◆


「よし、今日の訓練はここまでだ」


 走り終えた俺は地面に倒れ込んでいた。


「また明日と言いたいとこだが……明日はお休みだな」


「え? なんでですか?」


「やれるなら明日も訓練を付けてやるが、無理だと思うぞ」


 ?? アルデさんの言っている意味がよくわからないが、明日も訓練をするに決まっている。

 服は汗でグショグショだ。

 とりあえず今は、早く家に帰ってシャワーを浴びたい。

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