第6話 加護について3
アルデさんの声にいつものような豪快さのようなものはなく、落ち着いた声色だ。
「これは坊主や嬢ちゃんが生まれる前に起こった出来事だ。ある一人の男によっていくつもの教会が襲われ、沢山の聖職者が殺された事件が起きたんだ」
「もしかして?」
「あぁ、そいつは加護持ちだった。そのせいで対処に時間がかかってしまったんだ。加護持ちは強いからな……」
なんでそんな奴が加護を持っていたんだ? 意味がわからない。
それとも豹変する何かがあったのかもしれない。
「だがある時、急にそいつの力が弱まった。おそらく加護がなくなったんだろう」
神に使える聖職者を殺すことや教会への襲撃は、神への反逆と同じことか……
加護の剥奪に何かしら意志が働いていたとするならば、本当に神は存在するのかもしれない。
別に信じていなかったわけではないが、加護は神から与えられるものだと言われても、あまりピンと来なかった。
転生する前、まだ地球にいた頃俺は、神が実存しているだなんて思ったことがなかった。
まぁ、都合の良い時だけ神頼みだったけど……
もし、何かしらの意思が働いて加護が無くなったのなら、この世界には神という存在がいるのかもしれない。
うーん、神ってどんな感じだろう? あまり想像できないな。会うこともないだろうし関係ないか……
「その男、結局最後はどうなったんですか?」
「殺されたよ。今となってはなんでそんなことをしたのか知る由もないがな……」
「あとはそうだなぁ……」
暗くなった雰囲気を変えるように声を出す。
「同じ加護でも恩恵の程度が違うことがあるんだ」
「え……そうなんですか?」
「不思議だろ?」
加護についていくつか知ることが出来たが、加護は不思議なことが多いな。
アルデさんの話によると意外と、二つの加護を持っている人は多いみたいだな。
実際に外の世界でアルデさん自身の目で見たからこそ分かることなのだろう。いつかは村から出て自分の目で色々確かめることが一番確実なのかもしれないな。
村長さんの家の本には書いていなかったことも知ることが出来たし、良しとするか。
「俺が加護について知っていることといえばこのくらいだ」
「ありがとうございました」
「何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「はい……」
アルデさんは俺の顔を見るとニヤリと笑う。
「まだ俺に用があるんじゃないか?」
「え? なんでわかったんですか?」
「なんとなくなそんな気がしただけだ」
村長さんにアルデさんを紹介される前から、アルデさんにお願いしようと思っていたことがあった。
アルデさんの目をしっかりと見据えていう。
「俺に戦い方を教えて下さい」
アルデさんは昔、冒険者をしていた。今でもこの村や傭兵をしてくれている。
昔山から村に降りてきた魔物と戦っていた時の姿は今でも覚えている。
戦い方を教わるならアルデさん以外は考えられない。
アルデが加護持ちだったことは知らなかったが、嬉しい誤算だった。
「戦い方か……坊主はなんで強くなりたいんだ?」
理由なんて決まっている。悲惨な運命を変えるため、そして大切な幼馴染みを死なせないためだ!
「俺はエリンを守ってやれるほど強くなりたいんです!」
「そうかそうか! お前も男だな! よし俺に任せろ。戦い方を教えてやる」
「ありがとうございます!」
「よかったな嬢ちゃん。坊主が守ってくれるってよ!」
「うん!」
エリンは嬉しそうに笑った。
「さっそく今から訓練を始めたいところだが、今日はもう遅い。帰った方がいい」
外を見ると暗くなり始めている。かなりの時間話し込んでしまったようだ。
「明日からだな。俺に教えてやれることは全部叩き込んでやるから覚悟しておけよ」
「望むところです!」
アルデさんに訓練を付けてもらう約束を取り付けることが出来た。
問題は、エリンが殺されるまでの時間でどれくらい強くなれるかだ。
前世の記憶を取り戻してからそんなに時間は経っていないが、もたもたしている暇はない。
ポジティブに考えよう。エリンが死ぬギリギリに思い出さなかっただけマシだ。
ポジティブに考えていないと、これから待ち受ける悲惨な出来事を思うと潰されてしまいそうだ。
俺、片腕片足なくなるんだぞ? やってられない……
ともかく明日だ。今日はゆっくり休んで明日の訓練に備えよう。
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