『juneと耽美』

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『juneと耽美』

 今やBLと言う言葉は、世間では認知されています。

 しかし、四十年ほど前には、そんな言葉はありませんでした。

 いわゆる男同士の恋愛の世界は、「風と木の詩」「トーマの心臓」など、少年愛と言われる物がほとんどでした。

 その流れで、今となってはBLのパイオニアとも言うべき「june」の創刊があり、「Alan」が続き、BLは密かに花開いたと言う感じです。

 当時はいわゆる美しさを究極的に追求したヒロイックファンタジーなどに見られる、耽美的な世界が多く存在していましたが、次第にもっと身近な、自分達の隣にあるような世界観が好まれるようになりました。  

 学生、サラリーマンなど日常の延長線上にあるいわゆるBLです。

 その頃から爆発的な広がりを見せてきたBLですが、寂しいことに私の好きな耽美的で文学的な世界観という物が衰退していきました。

 ジャニーズなど、現実社会でも、可愛い、綺麗な男の子が出始めたのも要因の一つなんじゃ無いかと個人的には思ったりもします。

 一方で、明るく健全なBLばかりでは無く、裏街道では精神的に病んで居るものや、クスリやピアス、暴力、SMなどの退廃的な匂いよする世界感を持つ作品等が深く静かに侵攻して行きました。

 最初は興味本位だったこれらの作品も、時間と共に熟成していき、それによって人間の深い部分を炙り出すような深部まで描くような作品が見られるようになりました。

 退廃と言う意味においては、耽美的な世界は、どちらかと言うと裏街道の中に細々、受け継がれていたように思います。

 しかし、ここまで来るともはや「june」などは風前の灯に過ぎないとさえ思っていました。

 ところがです。恥ずかしながら最近になって、中華ファンタジーと言うものに触れたのです。

驚くことに、日本では絶滅危惧種だった「juneと耽美の世界」が、脈々と中国等のアジア圏で息づいていたのです。

 それを知ったきっかけは、アジア空前の大ヒットとなるネットドラマ「陳情令」。原作タイトルは「魔道祖師」の存在です。

 その作品すら中華BLファンタジーの氷山の一角に過ぎません。本当に沢山の作品が、ネットの小説投稿サイトなどから生まれているようです。

 中国ならではの独特な世界観。道教や仙挟と言った文化の中で育まれた世界観は、日本とは似て非なるものでした。

 それに耽美の世界感が合致したのかもしれません。

 女性のような華やかな衣装や髪飾り。長髪の美しい男達。そして美意識の高い国民性も手伝ったのかもしれませんが、耽美的世界に絶望感を抱いていた私には、一筋の光明を見た思いでした。

 恐らく、BLと言うのは日本が発祥なんだと思いますが、それがあの言論の自由、表現の自由の乏しい共産圏で生き生きと描かれ、それがかなりの市民権を得ていた事に驚愕でした。

(この事に関しては、やはりその後、BL作家達が厳しい取り締まりを受けたり、逮捕者が出たり、と言う事件もあるのですが、それは政治的な背景もあり、趣旨を欠いてしまうので、ここでは詳しくは述べません。)

 そして、アジア発の新しいBL世界は、更なる発展を見せていました。

恐らく元はゲームの世界から波及したと思われるのですが、ファイナルファンタジーのようなリアルで美しいCGを駆使した、新たなBL世界です。

 これらは「唐毒シリーズ」と呼ばれている事は分かったのですが、そのバックボーンが私にはには全く把握できません。

 動画サイトなどで見られるこれらの作品は、ショート作品からシリーズ化しているような長いストーリー物もあり、一部、日本語訳のついたものまで存在します。

 ネット小説や、ゲームから生まれた物もあるでしょう。

 何れにしても検索をかけても、CG動画は沢山見つかるのですが、それらの詳しい情報が、日本語では見つかりませんでした。

 中国語の変換をしても、正しい日本語の文章になっていなかったりと、改めて言葉の壁は厚いと感じざるを得ませんでした。

 そして、これらのCGアニメのBLは今流行りのABO(オメガバース/男が妊娠する世界)を取り込んだアジア発のヒロイックファンタジーと言う独自の路線を生み出していました。

 そう。このABOの登場で、厚いBLの壁には大きな一穴が穿たれたと思っています。

 そこから一気に違う次元に突入したと言っても過言ではないでしょう。

いったん開いた穴への流入の勢いは凄まじく、グイグイとBL世界を広げて来ています。

 BL世界がこれから先も、どのように変化を遂げて行くのか、興味が尽きません。

 BLなんて、若い頃の一過性の興味に過ぎないと思っていた私でしたが、こうしてめでたくおばさんになっても、やはりBL愛が止まりませんでした。

それだけ懐の深い世界だとも言えるでしょう。


 尚、これはあくまで私一個人が、長年、BLに関して思ったり、感じて来たままを書いています。

 事実と異なったり、皆様の考えと違ったりする事もあるかもしれませんが、ご容赦いただければと思います。

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