第420話 最初はお前達

「レティフィア……」


 あぁ、レティフィア。

 懐かしい……前世の、公爵令嬢だった時の私の名前。

 今の公爵令嬢だった時を彷彿とさせる私の姿に、狙い通りかつての私を思い出して重ねてるみたいだな。

 面白そうだし、ここはクズ勇者につきあってやろう。


「ふふっ、ノアール殿下」


 まぁ、今は殿下じゃなくて国王に即位して陛下なわけだけど。

 私が公爵令嬢たるレティフィアだった時はまだ殿下だったわけだし、細かい事は気にしない!


「残念ながら……レティフィアは死にました」


「「っ!!」」


「ノアール殿下、聖女リナ様。

 あなた方お2人の手で……お2人を始めとする皆様の手によって殺されたのです」


「レ、レティフィ……!」


「そんなつもりじゃ……!」


「〝お静かに〟」


 クズ勇者が。

 私の事を対して調査もせずにアバズレ聖女の言葉だけを盲信して冤罪で私を殺したくせに今更になってかつての私の名前を呼ぶな。


 そんでもってアバズレ聖女!

 何が、そんなつもりじゃなかっただ!! 故意に私の事を嵌めて他の貴族共と共謀。

 邪魔な私の家族諸共皆殺しにしたくせに。


「お伝えしたはずです。

 公爵令嬢レティフィアは死んだのです……今の私は原初の悪魔にして、全ての魔を統べる魔神」


 まぁ、本当の種族名で言えば今は魔神じゃなくて幼魔神になるんだけど。

 魔王の一柱ヒトリである魔神で通ってるからな。


 あっ、先に言っておくけど。

 これは別にこれは自分で幼魔神って名乗るのが恥ずかしいとか、そんな訳では断じてないからな!

 わかったか? バカ邪神!!


「私の名前は、レフィー。

 その名で……お前達が殺した、昔の私の名前で、私を呼ぶ事は、許さない」


「「──っ!!」」


 おっと、私とした事がちょっと殺気が漏れ出ちゃったわ。

 さてと、アバズレ聖女なんて自分の意思とは関係なく無理やり私の前まで歩かされて泣き叫んでたし。

 2人をビビらせる事はできただろうから、とりあえずクズ勇者とアバズレ聖女は喋れるようにだけしてこのまま放置するとして……


「魔神レフィー!」


「ん?」


「我々は……我ら連合軍は悪魔王国ナイトメアに全面降伏します!!」


「なっ!?」


「クリスっ!?」


「ですのでノアとリナを……私の友である2人を解放してください! これ以上、誰の血も流さないでください!!」


「クリス! 何を言って……!!」


 土下座するように地面に頭を擦り付けるクリス。

 そんなクリスに向かって叫ぶクズ勇者。

 うんまぁ、とりあえず、付与ノ神の権能で跪かされてるから最初から土下座みたいな状態にはなってたんだけど……


「そう、ですね……クリスの言う通りです。

 先程の話が……本当に神能を4つも保有しているのなら、私達に勝機はありません」


「っ!」


「アナスタシア様、まで……」


 同じように跪かされて、勝機がないと断言したクソ女神の言葉にアバズレ聖女が息を呑み、クズ勇者が愕然と目を見開いて言葉を漏らす。


「この戦いの結果が。

 私達と魔神レフィー率いる悪魔王国との戦争の結果がわかりきっている以上。

 これ以上、人々の血を流すのは愚かです。

 勇者ノアール、聖女リナ、ここは潔く敗北を認め、降伏して不毛な争いは止めるべきです」


「それは……ノア」


「っ……わかり、ました。

 レティ……いや魔王、魔神レフィー、我々は貴女に……悪魔王国に対して全面降伏します」


「ふっ! ふふふっ! あはっはっはっはっ!!」


 潔く敗北を認める?

 全面降伏する?

 何をお前達だけで勝手に盛り上がってんの?


「お前達の降伏は、受け入れない」


「なっ!?」


「言ったハズ。

 戦う意思のない、人々の避難は、受け入れると」


 が!


「それを拒絶し、お前達は自ら私と戦う事を、この戦争に参加する事を決めた。

 お前達はもう、この戦争から降りる事は……私の復讐から、逃げる事は、許されない」


「そんな……」


「「「っ!!」」」


 クズ勇者が項垂れて、アバズレ聖女、クリス、クソ女神の3人が息を呑んでるけど。

 じゃあ! 茶番が終わったところで気を取り直して!!



 パチンっ!



 指を鳴らすと同時に、大山脈が消し飛んで平地と化した荒野に大勢の人間が現れる。


「ふふっ、最初はお前達からだ」


 強制転移されられて取り乱しているゴミ共に。

 かつて権力欲、金銭欲、その他諸々の欲望に塗れて私を生贄に捧げ、ついでとばかりに私の大切な人を皆殺しにした権力者共に向かって死なないように一瞬だけ軽く魔王覇気を解き放った。

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