第409話 神速の刃

「っ────!!!」


「「「っ!!」」」


 地面に転がって声にならない悲鳴をあげるクリスの姿にか。

 はたまた自分達に向けられた私の視線にか。

 それとも、その両方か。

 ガスター、マリアナ、フェリシアの3人が息を呑み……


「クリスっ!?」


 クズ勇者が叫ぶと同時にその姿が掻き消える。

 まぁ、私の目にはハッキリと神剣を振り上げて踏み込んでくるクズ勇者の姿が見えてるけど。


 しっかし、コイツも学習しないなぁ。

 幾らクソ女神の加護と強化を受けて、到達者に至って擬似神能を獲得したとは言え、所詮はその程度。


 そこまで急激にパワーアップしたわけでも無いし、私と同じ超越者に至ったわけでもない。

 それなのに性懲りも無く真正面から突っ込んでくるとかバカなのかな? 無駄なのに。


 とりあえず、突っ込んでくるクズ勇者に向けてクリスを蹴り飛ば……血だらけで汚いから触りたくないな。

 仕方ない、魔弾バレットで吹っ飛ばしてっと!


「っ!!」


 うわ、避けたよコイツ。

 血も涙も無いな、仲間なら受け止めてやればいいのに。


「リナっ!!」


「任せて! クリス、今助けるからっ!!」


「はぁぁっ! 神速一閃っ!!」


 おぉ、やるじゃん。

 吹っ飛ばされたクリスをアバズレ聖女が柔らかな結界で受け止めた。

 そんでもってアバズレ聖女がクリスを回復させてる時間をクズ勇者が稼ぐ、か。


 うんうん、流石は旧魔王を討伐した勇者パーティー、実力はともかく、連携はまずまずだな!

 けど……この程度の剣速で神速とか笑わせてくれる!!

 クズ勇者の自称神速の剣が私の首へと迫り……



 ギィッンっ!!



 耳障りな金属音が鳴り響く。


「なっ!?」


 振り抜いた一閃が。

 自身の剣が結界に弾かれた事実に、クズ勇者が驚愕に目を見開く。


「ふふっ」


 何をそんなに驚く?

 まさかさっき常時展開してる結界を一度砕いただけで、私の結界を突破できるとでも?


 バカめっ!

 さっきお前が砕いたのは、言ってしまえば戦闘中に無意識下で展開してる程度の、私からすればあってないような結界にすぎないけど……


「っ──! 英雄ノ王、神千ノ太刀っ!!」


 ふふん! 今は神能を使って結構本気で展開してるんだぞ?

 そんな結界を幾ら擬似神能を使ったとしてもお前如きの攻撃で破れるハズが無いじゃん!


「ハァァァアッ!!!!」


 それにしても……煩いな。

 お前は一々叫ばないと攻撃できないの?

 まぁ、別にどうでもいいけど……それよりも! 自称神速の剣を謳うクズ勇者に本当の神速を見せてやろう!!


「ほっ」


 目にまとまらぬ連撃の最中、ふと神剣が私の結界に阻まれる事なく振り抜かれ……



 ドチャ……



「ハァァ……ぇ?」


 その感触の無さに。

 神剣ワールドを握ったまま地面に落ちた自身の右腕に、クズ勇者が茫然と気の抜けた声を漏らし……



 ビチャッ──



 斬り落とされた腕の切断面に滲み出るように浮かび上がった真っ赤な血が地面に零れ落ちる。


「音も。

 斬られた事に対する、痛みさえも、その事実さえも、置き去りする」


「ぁっ、がぁっ〜!!」


「これが、本当の神速」

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