第406話 覚醒

「む……」


 身動きが……


「ふふふ、無駄です」


 このクソ女神がっ!

 こんなにも可憐で、可愛い私の事をこんな鎖で簀巻きにしやがって……!!


「ふん、こんなので、私を捕まえたつもり?」


 バカめ! 確かに雁字搦めで身動きは取れないけど。

 私がちょっとその気になれば、こんな鎖なんてすぐに破壊して脱出できるんだからな!!

 良い気になるなよっ!?


「確かに貴女ならば、その拘束から脱出する事は容易でしょう。

 しかし……その鎖、封魔ノ神鎖は対魔に特化した神の鎖、多少の時間稼ぎにはなります。

 その間に態勢を整えさせていただきます」


 態勢を整える?


「勇者ノアール、聖女リナ、教皇クリス、大賢者マリアナ、冒険王ガスター、姫騎士フェリシア。

 私の愛しい子達よ」


 今も呆けてるアバズレ聖女とクリスを戦えるようにするつもりか?

 確かにクソ女神の恩恵を受けたクズ勇者に結界を砕かれたけど、所詮は常時展開してる結界。


 ガスター、マリアナ、フェリシアの3人は既に心を折ってるし。

 神能どころか超越者、ましてや魔王にすら至っていないらクズ勇者共如きを幾ら強化しても無駄なのに。

 まぁ、面白そうだからちょっと黙って見てやろう!


「挫ける事もあるでしょう、辛い事もあるでしょう。

 もし仮に魔神レフィーの見せた光景が事実だとして、確かに貴方達は間違いを犯しました。

 しかし、誰にでも……神である私でも間違う事はあるのです」


「誰に、でも?」


 おっと、アバズレ聖女が反応した。

 うっわ、わざとらしい涙目になっちゃって。

 俯きながら必死にどうすれば自分の誰にでも心優しい聖女様のイメージを壊さずに済むか考えてた癖に。


 まぁ、確かに私の記憶の中にはアバズレ聖女が私をわざと嵌めたって確たる証拠はない。

 何せ全部クズ勇者共が率先して動いてたわけだし。

 牢の前で何か言ってたけど、その時の私は精神が崩壊してて言葉自体が記憶にない。


 だからアバズレ聖女は、疲労から私の目の前で崩れ落ちて。

 私が地下牢に入れられてる事を知って。

 私の事を悪魔だとしただけって言い張れるし。


 まぁ、私が処刑される時のアバズレ聖女の勝ち誇った表情とか?

 私の目の前で崩れ落ちる直前の笑みとか?

 その他諸々、結構ボロが出てるんだけど。


 ここでクソ女神の言葉に乗っかれば、自分は間違いを犯してしまっていた事を知って、深く後悔して涙にくれていたところを女神の言葉に救われた〜みたいな感じを演出できるからな。


「そうです、誰にでも間違いはある。

 ですが、後悔し、嘆き、悲しみ、苦しむ事はあっても立ち止まってはなりません。

 何故なら貴方はこの世界に住う、全ての私の愛しい子達の希望の光たる英雄なのですから」


「あぁ、アナスタシア様……!!」


 うわぁ、何この茶番?

 てか、クリスはこれの何処に感動してるわけ?

 私なんて虫唾が走って、ちょっと鳥肌が立ったんだけど……


「さぁ、立ち上がるのです!

 かつて彼女が……レフィーが守ろうとした人々を守る事こそが。

 闇へと堕ちてしまったレフィーを浄化し、安らかな眠りにつかせてあげる事こそが私達にできる唯一の贖罪!!」


 えぇ、そこは皆んなで命を差し出して私の怒りを鎮めるとかじゃないの?

 はぁ、聞いて損した。

 結局は自分の都合のいいように私を悪、自分達を正義にしようとしてるだけかよ。


「唯一の、贖罪……」


「しかし……もはや私1人では強大な闇と化したレフィーを止める事はできません。

 ですからどうか、どうかレフィーを止めるために私に力を貸してください」


「もちろん、です」


 クズ勇者……蹴り飛ばしてやったのに元気そうで何よりで。


「よくぞ、そう言ってくれました。

 勇敢なる私の愛しい子達よ。

 人々の希望たる英雄達よ。

 貴方達にレフィーに立ち向かう力を授けましょう」



『ぴろん!

 勇者ノアール、聖女リナ、教皇クリス、大賢者マリアナ、姫騎士フェリシア、冒険王ガスターが主神・女神アナスタシアの加護を獲得しました!』



 前から思ってたけど、神域は隔離された小世界なのに何で天の声が聞こえるんだろ?

 いやまぁ、別にどうでもいいけど。


 アバズレ聖女が、教皇クリスが!

 クズ勇者ノアールが強い意志をその瞳に宿して立ち上がる!!

 うんうん、一度心の折れた英雄達が再び立ち上がり強大な敵に立ち向かう!


 良いねぇ。

 私の記憶を付与されてクズ勇者共に疑念を抱いていたとしても、それでも希望に縋りたくなるのが人間。


 今の光景を見て、愚かな人間共はまた奮い立って歓喜に沸いてるんだろうなぁ。

 ふふっ、あぁ本当に愚かだわ。


「必ずや私が、私達が彼女を……魔神レフィーを止めて見せる!!」


 クズ勇者が神剣ワールドを空に向かって掲げて力強く宣言し……



『ぴろん!

 勇者ノワールの覚醒を確認……称号・真なる勇者、到達者を獲得しました!

 覚醒により主神・女神アナスタシアの加護が昇華、保有スキルと統合進化……擬似神能を獲得しました!』

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