第265話 3人の罪人達 その2

 六英雄が1人。

 ヴァリエ騎士王国が騎士王である、姫騎士フェリシアの自室にて。

 サンドイッチなど、軽食の置かれた机を囲むのは3人の人物。



「ふぅ、ちったぁ落ち着いたか?」


「う、うん。

 ごめん」


「ふふ、やっと泣き止んだわね」


「うぅ……」



 冒険王ガスターがニヤリと揶揄うような笑みを浮かべ、大賢者マリアナは柔らかな笑み浮かべてフェリシアの頭を軽く撫でる。


 そんな2人に対して、目元をだけじゃ無く顔を真っ赤にしたフェリシアが恥ずかしそうに俯きながら、侍女達が用意したサンドイッチを食べる。

 どこかほのぼのとした空気が室内を満たしていた……


「ふん!」


 せいぜい罪人同士!

 私に負けた敗北者同士! せいぜい馴れ合ってろ!!


『また、彼らを覗き見して何やらナレーションをして遊んでるの?』


 遊んで無いわ!

 これは歴としたお仕事なんです〜。

 フェリシア達の動向をこうして監視してるんだよ! こんな朝から真面目に仕事するとか私って本当に偉いわ〜。


『朝って……悪魔ちゃん、もうすぐ正午だよ?』


「……」


 ま、まぁそれはさて置き。

 フェリシア達の様子はっと……


『あからさまに話を逸らすね』


 う、煩いぞ!

 フェリシア達を監視する事でクズ勇者とか、ヴァリエ騎士王国の動向がわかるかも知れないし。

 これは本当に歴としたお仕事なの、邪魔すんな!


『はいはい、わかったわかった』


 このヤロウ……絶対にいつかぶん殴ってやる。



「よし、じゃあ一服もできたしな。

 少し真面目な話をするか」


「っ……」



 サンドイッチを呑み込んで、一息ついたガスターの言葉を受けてフェリシアの表情が曇る。

 あははっ! いい感じに精神を、心を蝕まれてるみたいで何より!!


 自分のせいで無実の少女が死んだ。

 その家族も、その家に仕えていた使用人達も、少女の味方をした少女の友人も。

 少女と親しく、身近な者達が死んだ……いや、殺された、それも自分達のせいで。


 表面的な事しか見ずに、仲間が嘘をつくハズが無いと理由も無く盲目的に信じて全てを知った気になって。

 無実の少女を悪だと信じ込み、裏で行われていた拷問も、蠢く思惑も何も知らずに。

 巨悪を捌く正義の味方だと、世界を守る正義なのだと自分に酔って。


 嬉々として無実の少女を捕まえて、自身の影響力も考えずに声高に悪だと叫んで。

 酷い拷問の末に、少女の大切に思っているだろう人達を皆殺しにして、その様を少女に見せつけて巨悪には当然の報いだと嘲笑い……殺した。


 何が正義だ! 何が世界を守るだ!

 バカな自分のせいで、愚かな自分のせいで、戦争終結のために後方で1人奮闘した少女に無実の罪を着せて。

 諸悪の根源だと歴史にその名を汚名として刻ませて、絶望させてから殺した最低なクズ!


「ふふふ」


 フェリシアは、バカで単純な故に誰よりも正義感が強い。

 あはっ! せいぜい自分の罪を一生背負って! その罪悪感に苛まれて、苦しんで、苦しんで苦しんで……生きていけ。


『うわぁ、悪い顔』


 煩いぞ。



「そうね……私達2人とクリスの事は勿論。

 現状で私達が知っている事を話すわ」


「クリス?」


「そうだ。

 表向きアイツは病にかかって床に伏してるって事になってるが事実は違う」


「ぇ……」


「まず最初に言っておくが、魔神によって罰せられたのはお前だけじゃ無い。

 俺とマリアナにクリスは既に罰を与えられてる」


「フェリシアは4番目よ」


「っ!」


「まっ、それで話を戻すが。

 クリスは現実を受け入れる事ができずに課せられた罰に抗い、その反動で動けないってのが事実だ」



 そうなんだよね!

 アイツ、未だに事実を受け入れられずに現実から目を逸らしてアナスタシアに祈りを捧げて助けを求めては呪いに蝕まれて絶叫しながらのたうち回って。


 肉体ごと魂を造り替えられる激痛と、悪魔になっていく恐怖に絶望して涙と鼻水で顔をグッチャグチャにして。

 最終的には私に祈りを捧げて、悪魔化を抑え込むってのを繰り返してるからなぁ〜。

 ふっ、思い出したら笑えてきた。



「まぁ、クリスの詳細は後で説明するとして、まずはガスターの件から順を追って説明するわ。

 ガスター、早く説明しなさい」


「お前なぁ……はぁ、じゃあまずは俺が悪魔王国ナイトメアの調査のためにアクムスの大使館に潜入したところからだな」



「ふ〜ん」


 ほほう〜、これはこれは……ぷぷっ! まっ別にどうでも良いけど。

 ぐふふ、せいぜい罪人同士! 敗北者同士! 傷を舐め合って、馴れ合って、乳繰り合ってるが良いわ!!

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