第264話 3人の罪人達
コン、コン
豪華絢爛と言うよりは無骨でありながら、何処か品の良さを感じさせる広く閑静な廊下に扉をノックする音が鳴り響く。
「陛下、お客様をお連れいたしました」
主人を訪問して来た2人の人物と、護衛の騎士2人を引き連れた侍女が部屋の扉をノックし、主人に呼びかけるも部屋からの返事は無く……
「入るぞ」
「えっ、ちょっ……!」
「なっ!」
「何をっ!?」
とりあえず、応接室に2人を案内するために振り向こうとした侍女と、2人の騎士の焦る声を無視して客の1人。
ズボンにシャツと、この場所……剣城と呼ばれるヴァリエ騎士王国が王城に似つかわしくないラフな服装の男が部屋の扉を開け放つ。
「お、お待ちくだっ!」
「ふふ、ごめんなさいね。
大丈夫だから、あの子の事は私達に任せてちょうだい?」
ズンズンと部屋に入っていく男を静止しようと、焦って声を荒げる侍女の言葉を遮り。
彼女の口元に人差し指を当てた妖艶な美女が見惚れるような微笑みを浮かべて告げる。
「ぇ……」
「「っ!」」
その様子に男である2人の騎士はゴクリの固唾を飲み込み。
女性である侍女までもがポカンと、僅かに頬を赤く染めてしばし唖然と見惚れてしまい……
バタン
客人である男と美女の2人。
主人と同じく六英雄と称される冒険王ガスターと大賢者マリアナが主人の部屋へと入った後。
扉が閉まる音が廊下に鳴り響き、ボウっとしていた3人の意識は現実に引き戻された。
「お前な……タチが悪いぞ」
「ふふっ、でもそのおかげで円滑に話が進んだでしょう?」
「はぁ、制限もあるのにこの程度の事で魅了魔法なんて使うなよな……」
「軽くしかかけてないわよ。
それより、貴方も乙女の部屋の扉を許可もなく突然開けるのはどうかと思うけど?」
「いや、それはまぁそうだけどよ。
いくら待っても返事なんて無いだろ……この様子じゃあよ」
「それは……そうね」
部屋の中、フェリシアの自室は明かりが落とされていて暗く。
カーテンを透ける光と隙間から漏れる光だけが室内を薄らと照らす。
広々としたフェリシアの自室には応接室にもなっているリビングのほかに、仕事をするための執務室や寝室もあるものの寝室に人の気配は無く……
「ごめん、なさい……ごめん……」
リビングの隅。
そこにはカーペット上に座り込み、侍女がかけたであろう毛布を被って、顔を膝に埋めながらうわ言のように若干かれた声を漏らす。
「あ〜! もう、辛気臭ぇな!!
いつまでもメソメソしてんじゃねぇよ! お前らしく無いぞ!!」
そんなフェリシアの姿に、ガシガシと自身の頭を掻きながらガスターが声を荒げて窓のカーテンを開け放つ。
「煩いわよ。
本当にデリカシーが無いと言うか……ガサツなんだから」
「はっ、何とでも言え」
「でも、このバカの言う通りよ、
フェリシア、何時までもそうしてても如何にもならないわよ。
ほら、顔を上げて」
「うぅっ、マリアナ、ガスター……」
マリアナに両頬を支えられて膝に埋めていた顔を上げ。
クマの浮かぶ目元を真っ赤に腫らし、未だに目尻に涙を溜めながら弱々しい声を溢す。
「なんて顔をしてるの?
目が真っ赤じゃない」
「はは、ヒデェ顔だな」
「煩いわよ、ガスター」
「……じょ、冗談じゃねぇか。
いや、その……すまん」
「ほら、立って!
どうせずっと泣いてて、昨日から何も食べてないんでしょ?
貴女の侍女達が心配してたわよ? とりあえず朝食を食べるわよ」
「ぐすっ、でも、私……私のせいで、私なんて……!」
「はぁ……」
パシッ!
「しっかりしなさい!
いつまでもメソメソしててどうするの! 泣いてても如何にもなら無いの。
私達のしないとダメな事は、そうやって泣く事じゃ無いでしょ!!」
マリアナがフェリシアの両頬を両手で挟むようにして軽く叩く。
「いやお前、俺とやってる事大差な……」
「ナニ?」
「い、いや……そうだぞフェリシア!
どれだけ後悔しようとも過去は変えられねぇ、俺達は今、これからできる事をやるしかねぇんだよ」
「でも……」
「でもじゃ無い!」
「わかったら、まずはさっさと立って飯を食え。
今お前がやるべき事は飯を食って、お前の心配をしてるヤツらを安心させてやる事。
今後の事とかの話はそれからだ」
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