第262話 ざまぁみろ!!

 記憶の付与は、本当ならゆっくりと段階的に時間をかけてする必要がある。

 シルヴィア達なら兎も角、脆弱で矮小な人間じゃあ膨大な情報量に脳が耐えきれずに下手をすれば死んじゃうだろうけど……


 観客も、十騎士も、あの結構面白い実況ですら唖然と固唾を呑んでこの場を観てるわけだし。

 流石にこの状況でゆっくりとフェリシアの負担を軽減しつつ記憶を付与するってのは違うと思う。


 そもそも! 何でこの私がわざわざ、フェリシア如きの負担を考慮する必要があるのか。

 断言しよう、そんな必要は一切ない!!

 そして何より……手間と時間をかけるのは面倒くさいし……


「付与者」


 まっ! フェリシアは人間の中では強者の部類だし、天下の救世の六英雄の1人だし。

 うん! 大丈夫だろ……多分。


「ぁっ!」


 ビクンッ! って身体が震えて、これでもかって程に目を見開いてるけど……大丈夫だよね?


「ぅ……」


 な、何かちょっと虚な目になってるんですけど……って! 何で私がフェリシアの心配をしないとダメなんだよ!

 あ〜、もう良いや。


 最悪耐えきれずに死んだとしても蘇生させれば問題ない!

 魂さえあれば、肉体を復元させて蘇生する事なんて簡単だし。

 ふふふ、死んだ楽になるなんて許さない。


「ぅ、ぁぁ……っ!!」


 う〜ん、でもアレだな。

 喋れないようにしてるから、呻き声は聞こえてもフェリシアの絶叫が聞けないのは残念だなぁ〜。


「あはっ!」


 まぁ、身体を痙攣させながら呻き声を漏らすフェリシアってのも、それはそれで面白いけど!


「ぅぁ、ぅ……」


「……」


 ふむ、いくら面白いとは言え、もういい加減飽きて来たわ。

 う〜ん……とりあえず喋れるようにしてみるか。


「あっ、ぁあぁぁァっ!!」


「ふふっ」


「うぐっ、イヤ! イヤイヤイヤ! 頭が……割れるっ!

 何? 何なのコレっ!」


「あはははっ!!」


 いいね、いいね!

 その悲鳴! その絶叫! やっぱりこうじゃないとな。

 けど足りない、もっと恐怖しろ! もっともっと苦しめっ!

 私が味わった恐怖を、絶望を……その一端でも思い知れ!


「ヒッ! こ、来ないで! いや、イヤぁぁっ!!」


 ふふふ! 今のフェリシアの脳内には果たしてどんな記憶映像が流れるのか。

 まぁ、想像はできるけど。


「ふぅ……」


 もうちょっと、ガクガク震えてるフェリシアの無様な姿を見て嘲笑いたかったけど。

 一気にまとめて付与したから、もうそろそろ……


「っ! ぁ……はぁっ、はぁっ! うぐっ、ぜぇ、はぁっ……!!」


「おかえり」


「ッ!!」


「どうだった?」


「い、今のは何?

 私に何をしたっ!?」


 肩で息をしながら嗚咽までしちゃって。

 身体も震えて、目の端には涙まで浮かんでるし。

 お子様なフェリシアにはちょっと刺激が強かったかみたいだな。

 まっ! 自業自得だけど!!


「今お前に見せたのは、私の記憶」


「記、憶?」


 その通り!


「過去の。

 6年前の、真実」


「っ! う、ウソだ!

 そ、そんな事が……だって、それじゃあ私は……う、ウソに決まってるっ!!」


「コレが事実」


「ッ──!!」


「突然、婚約を破棄され。

 お前達の勝手な都合で貴族令嬢としての私の将来を潰され」


 まぁ、それはぶっちゃけどうでも良い。

 重要なのはここから先! 観客達もちょうど観入ってるようだし!

 フェリシアに自身の罪を思い知らせてやろう!


「冤罪で捕まり。

 ありもしない情報を吐かせるための暴行、拷問、陵辱。

 身動きが取れないように鎖で繋がれて、何人も男達からの殴る蹴るのリンチされて、魔法で回復させられて。

 何度も何度も鞭で打たれて、回復させられて。

 一枚一枚ゆっくりと爪を剥がされて、回復。

 指に手足を切断されて、回復させられる。

 死なないように細心の注意を払っての暴行と拷問」


「ぅ……」


「聖女を狙った報いとか言う、意味不明の理由での陵辱。

 逃げられないように鎖で繋がれてた牢の中に、発情したゴブリンを放たれ。

 純潔を奪われ、犯されて泣き叫ぶ私を牢の外で見ながら嘲笑うクズ共。

 仕事で溜まったストレスを発散するように、何人もの男共に犯され、嬲られたのも」


「あぁ……」


「私の家族が、侍女や仕えてくれた使用人達が、私を信じてくれていた友が。

 私の大切な人達が拷問の末に殺されたのも」


「う、うそだ……」


「全部、全〜部!

 お前の……お前達のせい」


「ぁ、あぁぁっ! ウソに決まってる。

 ね、ねぇ! ガスター、マリアナ! うそだよね……2人とも、このなの全部うそだよね?」


 涙を浮かべて。

 震える身体を抑えて。

 静かに傍観していたガスターとマリアナに必死に、縋るように……


「……事実だ」


「彼女の言っている事は。

 貴女が見た事は全て、本当の事よ」


「ぇ……」


 2人の言葉を聞いて唖然と! 確かな絶望を浮かべるフェリシアのこの顔っ!!


「うそ、でしょ……」


「俺達は許されねぇ罪を犯したんだ」


「……」


「じゃ、じゃあ私は。

 私のせいで……いや、いやぁぁぁっ!!」


「あはっ! あはははっ!!

 そう! お前のせいでこうなった! お前のせいで私は殺された!

 ねぇ無実の少女に酷い仕打ちをして、民衆の旧魔王との戦争での不満を自分達から逸らして発散させるために殺した正義の騎士様?」


「ぅっ、あぁぁぁっ!!」


「ふふっ! 自分のやった事は正義だと、頑なに信じていたモノが崩れ去った気分は?」


「あぁ、ごめんなさい……」


「一切調べる事すらなく、仲間の言葉だけを信じて戦争の裏方で1人奮闘していた無実の少女を殺した気分は?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい──」


「ふふっ、あはっ! あははははっ!」


 自分のせいで、私が暴行を受け、拷問されて、陵辱されて、大切な人達諸共に殺されたと言う事実。

 その事実を思い知り、背負っていく事がお前に与える罰!

 これから死ぬまで一生……身を焦す罪悪感に苛まれろっ!!


「ざまぁみろ!!」

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