第260話 真実を教えてあげる

 観客も、実況も。

 この試合……私の楽しい愉しい復讐アソビを観ている全ての人間共が一切声を発する事なく唖然としてるのに。


 空気を読まずに、憤りを露に乱入して来た十騎士達。

 降伏勧告をしてくる長髪のイケメンが十騎士の統率者だったかな?

 確か名前は……


「ふふっ」


 まぁ、名前なんてどうでも良い。

 私の邪魔をするなら、それが例え勇者でも、魔王でも、神でも! 誰でも関係なく、ぶっ潰すだけだし。


「陛下、こちらを」


「ぅ、んぅ……」


 十騎士の中で唯一名前を覚えるモラールは……私を包囲しながら対峙する他の十騎士達の背後でフェリシアに何か飲ませてるけど。


「あはっ!」


 ふふふっ、これは笑えるわ!

 私にボコられたフェリシアに、魔国が作った魔国産の回復薬を飲ませて回復させるとか。

 どんな皮肉だよ!


 まぁ、コイツらは魔国産だなんて知らないだろうし。

 あの回復薬は近年、冒険者ギルドを中心に流通し始めた効果の高い高品質の回復薬って思ってるんだろうけど。

 傷を治すのですら、私達の力が無いとできないとか……滑稽すぎる!!


 と言うか、回復薬の使用はルール上禁止だからこの試合はフェリシアの負け!

 まぁ、十騎士がフェリシアを守ろうと乱入して来た時点で既にフェリシアの反則負けな訳だけど。


「よくも? 許さない? 狼藉?

 ふふっ、お前達は何を言っている?」


「何だと……」


「これは試合。

 フェリシアが傷を負ったのは、フェリシアが私よりも弱いから。

 いつ、私がルールを破った?」


 確かに、この大会のルールでは対戦相手を殺してしまった場合は失格となる。

 が、私はフェリシアをボコったけど殺してない。


「っ……これのどこが試合だっ!?」


 まぁ、この統率者の言いたい事もわかる。

 これは試合の形式を取った、私による一方的な蹂躙なわけだし。

 けど、私が何一つルール違反をしてない以上、ルールを無視して勝手な正義感で乱入して来たのは向こう。


「自分勝手で自分本位な正義感を振り翳してルールを無視し試合に乱入。

 その上、多勢で一人を囲う……ふん、騎士の風上にも置けない下衆共が」


「っ! な、何だと貴様っ!!」


 お〜お、顔を真っ赤にして怒っちゃって。


「何を怒る?

 私は客観的事実を述べただけ」


 それに…… 多少は回復できたみたいで、十騎士に守られ、モラールに付き添われながら私を睨んでるけど。


「フェリシア、安全な後方で十騎士に守られて、回復薬を使用する。

 六英雄様が率先してルールを破る」


「っ!!」


 流石に自覚はあったみたいだな。


「あはっ、お前が弱い事は知ってたけど……お前には失望した」


「っ……これ以上、陛下を侮辱する事は許さんっ!!」


 悔しげに顔を歪めて押し黙るフェリシアとは違って、激昂して斬りかかって来る十騎士の統率者。

 確かにそこそこ筋は良い……が。


「ダメっ! 皆んな逃げて……!!」


 あははっ! 残念だったなフェリシア。

 今更忠告してももう遅い。


「なっ!?」


 振り下ろされた袈裟斬りを、指で挟んで止める。

 もう使い古された手だけど、やっぱり圧倒的な力の差を見せつけには丁度いい。


「そもそも、お前達は一つ勘違いしてる。

 お前達じゃあ私には勝てない」


「ッ!!」


 ヴァリエ騎士王国では、最強の者が騎士王となる。

 つまり、この国で一番強いのはフェリシア。

 フェリシアよりも弱いくせに、10人集まった程度でこの私に勝てるとでも?


「不愉快だ、〝跪け〟」


「っ!!」


「なっ!?」


「これはっ!」


「ぐっ……」


「いっ、一体何が……!?」


「〝黙れ〟」


「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」


 これでやっと、私の楽しい愉しい復讐アソビの時間を邪魔する煩わしい声が無くなった。

 そもそも、私を見下ろしてんじゃねぇよ! イケメン野郎がっ!


「ふん」


 まっ、今はこんなヤツより!

 十騎士と一緒に両膝を地面について跪き、唖然と目を見開いてるフェリシアだ。


 付与者の権能で〝跪け〟と〝黙れ〟を付与したのは観客席を省く闘技場に存在するもの全て。

 つまりは十騎士と、フェリシアなわけだけど……


「あはっ」


 良いね、良いねっ! その顔だよ!!

 その僅かに隠しきれてない不安と恐怖! いい表情になって来たじゃん!!


 さぁ! もっと恐怖しろ!!

 ふふふ、恐怖をじっくりと煽るように一歩ずつ、ゆっくりとフェリシアに向かって軽く魔王覇気で威圧しながら近づいて……


「っ……!!」


「ん?」


 あぁ、そう言えばすぐ側でモラールがフェリシアを介抱しながら付き添ってたんだっけ。

 ふふっ! この状況下でも、私の事を睨んでるメンタルは褒めてあげるけど……


「がぁっ!?」


「邪魔」


 壁近くまで蹴り飛ばしちゃったけど。

 まぁ、死んでは無いし、そもそも私の邪魔をしたアイツが悪い。

 さてと……


「フェリシア」


「ぅ……ぁ、ぅ」


「バカで、愚かなお前に。

 真実を教えてあげる」


 唖然と、口をパクパクさせながらこっちを見上げるフェリシアに優しく微笑んで……翼を広げながら、押さえていた魔素エネルギーを解放した。

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