第259話 この程度なの?

「ふぅ〜、まさか一撃もらっちゃうとはね。

 ノア達と一緒に魔王を倒した時以来だよ」


 まだまだ余裕か。

 まぁ、あのクソ女神アナスタシアが旧魔王の軍勢と戦うにあたって六英雄に与えた6個の神器。

 その内の1つでフェリシアに与えられた聖剣ワルキューレ。


 基礎能力の向上は勿論、その切れ味と速度の向上は凄まじく。

 全ての属性を所持者であるフェリシアの思うがままに刀身に宿らせ、敵対する者の弱点を確実に突く。

 聖剣ワルキューレを持ち戦場を駆け回る姿こそが本当の、本気になった姫騎士フェリシアの姿だしな。


『神器? 何それ初耳なんだけど』


 ん? あぁ〜そつ言えばお前に説明した事は無かったか。

 ガスター、マリアナ、クリスと、3人とも最初から神器を使ってたから特に気にならなかったけど。

 今回は大会って事で、いつもなら肌身離さず持ち歩いてる聖剣ワルキューレを置いて来たみたいだな。


「ふふっ! いいよ、キミは本当に強いみたいだし。

 ここからは私も本気で行く! 我が手に来たれ、ワルキューレっ!!」


 おっ、ほらたった今フェリシアが手元に召喚した片手剣が聖剣ワルキューレ。

 あの忌々しいアナスタシアが旧魔王を早急に処理するためにフェリシアに授けた公式チート。


「行くよ〜っ!!」


 ガスターの持っていた長剣。

 聖剣ガイアは特別な能力は無いけどとにかく刀身が頑丈で、所有者の生命力、体力、そして頑強さを跳ね上げる。

 長剣を好きなように振り回して敵を叩き潰すって戦い方のガスターにはお誂え向きな武器。


「はぁっ!」


 マリアナの神器は、マリアナが持っていたあの大きな杖。

 その名も聖杖イヴ、全魔法の威力向上を始め。

 空気中に存在する魔素を魔力へと変換し所持者であるマリアナの魔力とする……ふふ! まっ、私には通用しなかったわけだけど!!


「まだまだっ!」


 そんでもって、クリスのは白亜の盾で聖盾ユミル。

 所有者の全身を白亜の鎧で包み込み、自動的にあらゆる攻撃を弾く広域結界を展開する守備に特化した神器。

 ある種の絶対防御と言えるけど、クリスの魔力が切れたら結界も解ける。


「くっ!!」


 っとまぁ、こんな感じだな。


『へぇ、じゃあ悪魔ちゃんは現在進行形で普通に片手間で打ち合って、あしらってるけど結構凄いんだね』


 まぁ、この世界にする人間共の中で常識としてその名前が知られてるくらいには。


「はぁぁあっ!!」


「煩い」


 さっきから何なの?

 一々大声出して叫ばないと攻撃できないわけ? もう二十歳超えてるくせにガキみたいな声を出しやがって……ハッキリ言って耳障り!!


「く、ぁっ!?」


 あっ、ついついフェリシアの剣を弾くのに力が入っちゃった。

 ぷっ! あ〜あ、救世の六英雄様ともあろう者がみっともなく吹っ飛ばされて地面をゴロゴロ転がっちゃって。


「ふふっ」


 じゃあ、今度はこっちから!


「受け止めろ」


「っ!!」


 よくできました!


「がぁっ!?」


 けど、脇がガラ空き。


「あはっ」


 壁まで吹っ飛んだけど、ちょっと強めに蹴りすぎたかな?


「がはっ、がはっ! っ……おぇっ! ぅぐ……」


 お腹を押さえて蹲りながら嗚咽してるし、問題なさそうで何より!


「ふふっ」


「はぁ……ハァ、ゲホッ! ぐっぅ……」


「ふふふ、あははっ!

 立て」


 って言われても無理そうか。

 なら仕方ない! この私が直々に髪の毛を掴んで立たせてやろう!!

 あっ……身長的に頭を持ってたら立たせられない……


「ぅ、あ……は、離せ……」


「ねぇ、この程度なの?」


「っ!!」


「ふふ、流石は六英雄最弱」


「な、ナメるなぁ〜っ!!」


 髪の毛を掴んで手を振り払うために剣を振り上げるか。

 やっぱり、ここで私の首を狙ってこない時点で逃げ腰と言うかなんと言うか。

 ガスターですら隙あらば私の首を落とそうとしてたのに、フェリシアはなってないわ。


 まぁ、ぶっちゃけた話。

 このまま聖剣ワルキューレを受けても私の柔肌には傷一つつかないだろうけど……人間共からすれば流石にそれは異常事態すぎるし。

 仕方ない……ふふっ! もうちょっと甚振ってやる!!


「がぅぁっ!?」


 はいはい、剣を大振りで振り上げたりするから今度はさっきとは反対側の脇腹がガラ空き!

 深々と回し蹴りが突き刺さったけど……


「逃がさない」


 はいっ! 長ったらしいフェリシアの髪の毛を掴んで……



 ブチブチっ!



「っと」


 危ない危ない。

 咄嗟に魔力で保護したから良かったものを、もうちょっとで髪の毛が引きちぎるところだったわ。


「くっ!」


 おぉ、ここで蹴りを入れて反撃してくるとは。

 ふふ、ふふふ! あはっはっはっ!! うんうん、そうじゃ無いとなっ!!

 けど残念、その程度の蹴りじゃあ遅すぎる。


「がっ」


 魔刀の柄の頭でフェリシアの顎を打ち上げて!

 はい、仰け反って身体が伸びた事でまたガラ空きになったお腹にボディーブロー!!


「ガハッ!? オェ、ぅ……ゲホッ!」


 髪の毛を掴んでるから吹き飛んで逃げる事もできない!


「あはっ! 苦しい?」


「がはっ、がはっ!!」


 まぁ、吐血してるし苦しく無いわけが無い。

  私も冤罪で捕まって大勢の男にリンチされたからわかるけど……この程度で根を上げてもらっては困る。


「ヒュ……ぜぇ、ハァ……」


「あははっ!

 もっと、頑張ってっと」


 あ〜あ、せっかく良いところだったのに。


「っ! 貴様…… よくも陛下をっ……!」


「許さぬぞ!!」


「陣形を組め!

 ヤツを包囲しろ!!」


 まぁ、いいか。

 コイツらが邪魔してくる事は最初からわかってたし。


「これ以上の狼藉は見過ごせません。

 冒険者レフィー、直ちに降伏しなさい」


「ふふっ、あははっ!」


 降伏? この私が? この程度のヤツらに??

 笑わせてくれるわ!


「ようこそ、十騎士」


 私の邪魔をするヤツは。

 誰だろうと関係ない……


「お前達ともアソンであげる」

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