第223話 衝突する英雄達

『っ! キミ達は自身が何をしているのかわかっているのかっ!?』



 大聖堂から真っ直ぐに伸びる大通り。

 聖都デサントの中心部に存在する中央広場にて、腰まである金の髪を振り乱してアナスタシア教国の王。

 教皇にして狂信者であるクリスがその顔を歪めて声を荒げる。


 そして! 中央広場の外から多くの人々が見守る中、そんなクリスと対峙するは2人の男女!!

 クリスと同じく、救世の六英雄と呼び称えられる人類最強の一角。

 大賢者マリアナと冒険王ガスター!



『ガスター! マリアナ!』


『あぁ、当然理解してるさ』


『えぇ、そうね。

 ふふ、私達2人がこの聖都にいる誰よりも正確にこの状況を理解しているわ』



 私の出したヒント?

 付与してやった聖都デサントの全域マップという一時的な権能を得た人間共に泣きつかれた2人に追い詰められてるわけだけど……


「う〜ん」


 何だろ?

 何かちょっと微妙だわー。

 いやまぁ、マリアナに掛けた魔法の制限も一時的に解除してるし。


 同格とは言え、クリスはパーティーの壁役。

 そりゃあモブの有象無象に比べたら戦闘能力もずば抜けてるとは言え、ガスターとマリアナは生粋の戦闘職。

 そんな2人を相手に2対1ならこうなるのは当然の結果なんだけども……


「もうちょっと頑張って欲しかったなぁ」


 ガスターとマリアナが人間共に泣きつかれて鬼ごっこに参戦したのが今から約10分前。

 地の利はクリスにある訳だし、裏道とか秘密の地下通路とかを存分に使って結構良い勝負になると思ってたのに!


 まさか、こうも容易く勝負がついてしまうとは……だって10分だよ! 10分っ!!

 いくら何でも早過ぎだろ!

 逃げ切れないにしても、もうちょっと頑張れよ! クズ狂信者!!


『いや、結構妥当な結果だと思うよ?

 だって悪魔ちゃんが聖都中の人達に付与したマップ機能は彼等にも有効なわけだしね』


 ……た、確かに言われてみればそうかも。

 クリスがどこに逃げてもガスター達はクリスの居場所がわかる。

 隠れたとしても位置情報はバレてるからマリアナが魔法で探知すれば意味無いし。


「……うん! 予定通り!」


 うんうん! いつまでも見栄えのない鬼ごっこを見せられても面白くないし。

 当然、こうなる事は分かっていたよ?

 うん、計画通りっ!!


『それは流石に無理が……』


 シャラップ! 黙れ邪神!!

 ノリで鬼ごっこを始めちゃったけど、ぶっちゃけ飽きてきちゃったし、早々に鬼ごっこを終わらせるのは本当に計画通りなのだよ!

 はい、証明完了! この話は終わり!!


「ふぅ〜」


 よし、ジュースも飲んで落ち着いたし。

 鬼ごっこも無事に終了して、こっからが良いところだからな!

 むふふ! もうちょっと高みの見物を続けながら寛がねば!!



『冒険者は力のない一般人を守るのが仕事だ。

 クリス、悪いがお前を確保させてもらう』


『貴方には申し訳ないけど……コレは私達の問題、私達の過ちが全ての元凶。

 この復讐劇に無関係の人々を巻き込むわけにはいかないでしょう?』


『キミ達は何を言っているんだ?

 私達の過ちだと? まさかとは思うが……あの女を、あの卑劣な悪魔の処刑の事を言っているのか?』


『『……』』


『ふん、バカバカしい。

 まさかキミ達までも卑劣な悪魔の言葉と、あの映像に惑わされるなんてね』



 まっ、狂信者に何を言っても無駄。

 全てを自分の都合がいいように、自分が信じたいように解釈して、それこそが真実だと信じ込む。

 コレがクリスが狂信者たる所以だし。



『目を覚ませ! 私達はこんな事をしている場合ではない。

 もうすぐノア達もこの聖都に到着する。

 ガスター、マリアナ、本当に人々を守りたいのなら悪魔の虚言に惑わされるな!

 私達の手で今度こそ、あの卑劣な悪魔を滅するんだ!!』


『目を覚ますのはお前だ』


『ガスター、無駄よ。

 今のクリスに、私達が何を言っても意味が無いわ』



 流石は叡智を誇る大賢者。

 マリアナはわかってるな〜。



『くっ……ならば、私の手でキミ達の目を覚まさせるまでだ!』


『手加減はできねぇぞ』


『貴方を捕らえさせてもらうわ』



 クリスが全身に白亜の鎧を身に纏い、召喚した白い大盾を構え。

 対するガスターは魔力を纏わせた剣を抜いて、マリアナが杖で地面を叩いて魔法陣を幾多もの浮かばせる。


「ふふ!」


 六英雄同士の衝突!

 まぁ、結果は目に見えてるけど……とりあえず、ポップコーンを召喚しないと!!

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