第218話 例え主神でも赦さない

 いつもいつも。

 当然のようにそこに存在し、毎日見上げてきただろう霊峰ルミエルの消滅……


「う、うわぁぁあっ!?」


「きゃぁぁぁっ!!」


「いや、いやぁっ!!」


「助けてっ!!」


「逃げろっ!」


「ひぃっ! バケモノ……!!」


 その人智を超えた事実をやぁ〜っと理解した人間共が、ポカーンと晒していたマヌケな顔を恐怖に染め上げて、大混乱に陥って騒ぎ出す!


「あはっ!」


 そうそう! この反応だよ、この反応!!

 あぁ〜、聖都デサントのそこら中から感じる恐怖と絶望に支配された心と魂。

 こう言う反応をして欲しかったんだよねー!


 私は全ての魔を統べる魔神!

 悪魔王国ナイトメアの女王たる原初の悪魔にして、最強で最凶な魔王が一柱ヒトリな訳だし!

 あんなクソで最低な自己満女神アナスタシアと間違われて崇められるとか、考えるだけで吐き気がする。


「ふふふ!」


 さぁ愚かで醜く、脆弱な人間共よ!!

 もっと恐怖しろ! もっと逃げ惑え! 恐怖に震えながら泣き叫び、無様に地に這い蹲って命を乞え!


 そして……私のこの力を、この美貌を! もっともっと畏怖しろ!

 女神アナスタシアと勘違いしてでは無く、魔神たるこの私を自身を崇めて、讃えるが良い!!


『楽しそうだね』


 それはもう!

 だって人間共がこの私に! いつもならこの容姿のせいで侮られるこの私に恐怖して必死に逃げ惑ってるんだよ?


 むふふ! はした無いけど、頬が緩んでニヤけちゃう!

 もう無表情って定評がある流石の私でも満面の笑みを浮かべちゃうってもんよ!!


『いや、ちょっと口角が上がってる程度で、とても満面の笑みとは言えないと思うけど……』


「あはは! 人がゴミのようだ!!」


『……うん、まぁ悪魔ちゃんだし。

 畏怖される経験が少ないから、嬉しくて私の話なんて聞いてないよね』


 ん? 何か言った?


『いいや、何も言ってないよ。

 と言うか、ソレを言っちゃうか……』


 ふふん! 上空から逃げ惑う人間共を見下ろしてる訳だし、我ながらいいセリフを選んだと思う。

 てか、なんでお前がこのセリフの事を知ってんだよ……


『なんでって、名作だからね』


 いやまぁ、そうだけども。

 そう言う事じゃ無くて、何で邪神のお前が地球の……それも日本の映画のセリフを……


『あはは、まっ悪魔ちゃんが魔神であるように、私は邪神。

 これでも最高位の神が一柱ヒトリだからね』


 なんの説明にもなって無いんだけど……まぁ、別にいいか。

 そんな事より、今はこっち人間共!!


「さてと」


 うん、私に恐怖して必死に逃げ惑ってるのは良いんだけど……


「そこを退け! この愚民共がっ!!」


「何だとっ!?」


「えぇい! 黙れっ!!

 この馬車には貴様らのような愚民共とは違う貴族のお方が! アルタイル王国の子爵様が乗っておられるのだ!!

 とっとと道を開けよっ!」


 何か豪華な馬車を護衛する騎士みたいなオッサンが喚き散らしてるし。

 まぁ、既に聖都デサントからは出られないようにしてるから幾ら必死に逃げ惑おうが無駄なんだけど。


「くそっ! どうして……」


「何でこんな事に!」


「何で私がこんな目に遭わないといけないのよ!!」


 走って逃げる、子供を連れて逃げる、馬車には乗って逃げると、他の場所でも似たり寄ったり。

 この大混乱じゃあ誰も私の話なんて聞かないだろうし。

 とりあえず、静かにさせるとしよう。


「〝黙って平伏せ〟」


 おぉ〜! 付与者の権能を使って強制的に黙らせて平伏させたけど。

 流石にこれ程の人間が一斉に押し黙って平伏すると壮観だわ!!


「聞け、人間共」


『っ! これ以上、貴女の好きにはさせませんっ!!』


 ちっ、良いところだったのに邪魔が入ったか。


「ふむ」


 流石はこの世界の主神。

 まだ神域化はしてないとは言え、既に聖都デサントを含めたここら一帯は私の支配下。


 まぁ、邪神は例外として、いかに超越者たる神と言えども簡単には干渉できないようにしてたのに。

 この短時間で干渉してくるとは……


『さぁ、迷える哀れな魂よ。

 貴女に安らぎを与えましょう』


 アナスタシアの声が鳴り響くと同時に、私の周囲を神聖な白い光が。

 女神アナスタシアの魔素エネルギーが包み込む。


『安らぎの浄光』


「これは……」


『貴女はよく頑張りました、もう安らかに眠りなさい』


 何か既に勝ち誇ってるところ悪いんだけど。


「不愉快だ」


『っ!?』


 安らぎの浄光ね。

 自身の魔素で私の事を包み込むことで私を構築する魔素に干渉して分解、浄化しようとしてたみたいだけど。


 ちょっと翼を広げただけで消し飛んじゃったし。

 この程度で私を消滅させようとか……地味に私の使う滅光魔法に似てたし本当に不愉快だわ。


『そんな、私の魔素エネルギーが!

 貴女は一体……』


「例え神だろうと、主神だろうと私の邪魔をする事は赦さない」


 大人しく天界から見てるだけなら今はまだ、何もしないであげたのに。

 付与者とは全てに干渉する力。

 アナスタシアが私の支配領域に干渉できるのに、私がアナスタシアの神域に干渉できないわけが無い!!


「滅光魔法」


 てな訳で、アナスタシアの神域空間に干渉してっと!


『っ!? こ、これは……!!』


 威力はさっき霊峰ルミエルを消し飛ばしたモノとは比較にならない!

 まぁ、この程度で神を殺せるわけが無いんだけど.…


『っ──!!』


 それでも無傷では済まないだろうし。

 直撃すれば大ダメージは確実!


「ふふふ! せいぜい必死に防ぐが良い」


 さてと、これで邪魔者はいなくなった事だし!


「愚かで醜い人間共。

 どうしてこんな事に? 何で私がこんな目に? と思ってるお前らに教えてやろう」


 何も知らないのはちょっとフェアじゃ無いからな。


「ふふふ! お前らが何故こんな事になっているのかを……」

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