第172話 凶報
その日、五大国の一角にして超大国と呼ばれるアルタイル王国の王宮ではささやかながらも、超大国の名に恥じないパーティーが行われていた。
王宮の中に存在する離宮の一つ。
限られた者しか立ち入る事が許されていない王族のプライベートルームに集まっているのは数名の人物達。
聖女リナとその隣に佇むリナの夫、アルタイル国王である勇者ノアール。
そんな2人とテーブルを同じくするは、救世の六英雄と呼び称えられる4人の人物。
ローブに身を包みし妖艶な美女、大賢者マリアナ。
品のいい聖職者としての白い正装の教皇クリス。
クリスと同様に白でありながらも騎士然とした服装の姫騎士フェリシア。
そしてシンプルかつ品と質の良いドレスコードの冒険王ガスター。
「そろそろ、本日の主役の登場のようだね」
ノアールが呟くと同時に、この部屋へと続く両開きの扉が押し開かれる。
この世界の頂点に立つ英雄達が集うその場に足を踏み入れたのは……
「皆様、本日は私のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
文句の付け所の無い完璧な礼儀作法で一礼する金髪碧眼の幼い少年。
今日6歳になったばかりの少年がスッと下げていた顔を上げ、大の大人ですら緊張に震えるだろう面々を前に一切臆する事なく堂々と英雄達をその目に見据える。
その姿はまだ6歳になったばかりの子供にはとても似つかわしく無い貫禄すら漂わせる少年。
勇者ノアールと聖女リナの子にしてアルタイル王国が第一王子であるセラフィル・エル・アルタイルはどこか覚悟したような、確固たる意思を持った瞳で父を、母を、英雄達を見据える。
「彼女は私の婚約者の」
「アリシア・ヘルヴィールと申します。
以後、お見知り置きくださいませ」
セラフィルがエスコートし、隣に伴っていたていた美少女。
セラフィルよりも少し明るい金の髪に水色の瞳をしたアリシアが優雅に一礼し、セラフィルと共に英雄達を静かに見据え……
「うん、よろしい。
フィルもアリシア嬢も十分に合格だよ」
ニコッと微笑むノアールの言葉によって、いつの間にか張り詰めていた空気が一気に緩和する。
「うふふ、少し合わないうちに随分とご立派になられてしまったようで少し寂しいわ」
「全くですね。
お2人共まだ6歳と5歳とはとても思えませんね」
「うんうん! 流石はノアとリナの息子にしてボクの弟子であるセラフィルと、フィルの将来のお嫁さんだね!!」
「本当、末恐ろしいガキだよ2人とも」
六英雄達も口々に話だしたこともあり。
壁際に控えていた使用人達がこっそりと緊張の息を吐き出し、安堵の息を着く。
しかし、セラフィルとアリシア、2人の表情が変わらない。
どこが覚悟を決めたような、確固たる意思と決意を持って静かに彼らをその目に見据える。
「父上と母上に……いえ、皆様にお聞きしたい事があります。
少しお時間をいただいても宜しいでしょうか?」
セラフィルの言葉に再び、張り詰めた空気が流れ出すと使用人達が若干顔色を悪くしたその瞬間。
「もう! フィルったら、いつまでもそんな格式ばった話し方をしてないで普通に喋って良いんだよ?
ほらこっちにおいで! せっかくのフィルのお誕生日会だもん、お母さんにもっと顔をよく見せて?」
「あはは、まぁリナもこう言ってる事だし、話はまた後にしよう。
フィル、それでも構わないか?」
「……わかりました」
「よし! それじゃあ今はリナの言う通り、フィルの誕生日パーティーを楽しむとしよう!!」
ノアールの言葉を受けて、控えていた使用人達が立食形式での食事を並べ始め。
数日後に予定されている第一王子として国中の貴族や各国の重鎮を招いて大々的に催される誕生日パーティーとは別のパーティーが。
聖女リナが提案した、家族や友人達といった親しい間柄な者達だけで和気藹々と楽しむお誕生日会が開始された……のだが、この楽しいはハズのパーティーは途中で中断する事となる。
「も、申し上げます!!」
ノックも無しに、王族と限られたごく一部の者しか立ち入る事を許されていないパーティー会場の扉が開け放たれ。
転がり込むようにして入って来た騎士が声を荒げる。
「1週間前、アクムス王国とフラン帝国との国境付近に存在する魔の森及び草原にて悪魔王国軍約1000とグローリー王国、フラン帝国、アウストロ皇国からなる連合軍約20万が衝突……」
「続きを」
思わず言葉を飲み込んだ騎士に続きをノアールが促し……
「しょ、詳細は不明ですが、悪魔王国が女王に従軍していたSランク冒険者、双極のラモールが敗北し死亡、さらに約10万が巻き添えになり消滅」
「消滅……」
愕然とノアールが呟きを漏らす。
「連合軍は開戦後10分も経たずに崩壊。
連合軍約20万のうち、敵の追撃もあり半数以上、約13万の犠牲を出しながら敗走したとの事です……」
誰もが信じられ無い言葉に。
あり得ない報告に唖然とし、静寂が舞い降りた。
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