第144話 鬼ごっこ!

魔神デヴィルロードか……クックック、面白い。

 悪魔に服従し、利用されてるだけの哀れな小娘を敵として殺すのは流石に可哀想だと思ったんだがな」


 さっき思いっきり私を殺そうとしたくせに今更何を言ってんのやら。

 しかも、この期に及んでもまだ私の話を信じてないみたいだし……まぁ、身をもってわからせてやるから別にいいけど。


「下位悪魔? 悪魔公? お前は妄想癖でもあるのか?

 まぁだが、虚言とは言えそこまで大口を叩いたんだ、ここからは俺も少し本気で……お前に現実ってやつを教えてやる」


 コノヤロウ、黙って聞いてたら調子に乗りやがって……お前に! この私が! 現実を教えてやるの!!

 断じてその反対は有り得んわ! バーカ、バーカっ!!


「それに、お前はあの女の事を知っちまったからな。

 あぁ、安心しろ別に殺しはしない。

 ただちょっと身動きができない程度に痛め付けてから記憶を操作するだけだ」


 うわぁ、こんな事をニヤリって笑みを浮かべながら何の躊躇もなく当然のように口にするとか……

 こんなヤツが救世の六英雄とか世も末だな。


「さてと、じゃあ取り敢えず……手足を斬り落とすか。

 ん? おいおい、さっきまでの威勢はどうした? クックック、恐怖で声も出ねぇか?

 まぁ、そうビビんなって、あの女の記憶を消した後で元通りにしてやるからよっ!!」


 その瞬間、ガスターの姿が掻き消え地面が爆ぜる。

 流石は魔王と渡り合い、打ち勝っただけの事はある。

 救世の六英雄と呼ばれる相応しい鋭く速い、まさに神速の踏み込み。


 なるほど、さっきは私の圧に当てられて咄嗟に反応しただけで全力じゃ無かったってわけか。

 だから簡単に避けられたのに、本気を出せば私に勝てると思い込んで余裕ぶってたんだな。


「なっ!?」


 ガスターの目が驚愕に見開かれる。

 ふ、ふふ、ふはっはっは! 良い、良いぞ!!

 もっと驚愕するが良い!!


「残念だけど……」


 宣言通り、まずは腕から斬り落とそうと剣を振り下ろし……

 私の腕を切断するどろこか、このすべすべでもちもちな柔肌にすら傷一つ付けられずに剣の刃が止まって唖然とこの間抜けな顔!


「お前程度じゃあ、私に傷一つつけられない」


 ふっ! 決まったっ!!

 いやぁ、気分いいわ。

 もう柄にも無くドヤ顔しちゃう程に気分いいわぁー!


 ふっふっふ〜! バカめ!!

 さっきは何か癪だったから避けたけど、仮に直撃していたとしてもこの通り! 私には傷一つつけられんわっ!!


「っ! 死ねっ!!」


 今度は私の首を狙って、魔力を存分に纏わせた剣での一閃。

 腕を斬れない衝撃からの立ち直りと、即座に殺害へと切り替えた判断の速さにこの剣速。


 流石は冒険者の頂点に立つSランク冒険者、冒険王ガスター。

 実力だけは救世の六英雄と呼ばれるだけはある……けど残念!


「なん、だと……」


「ふふ、言ったハズ。

 お前では私には傷一つ付けらない」


 当然のように私の首に当たって停止した剣を見て、愕然と目を見開くガスター。

 その瞳に宿るのはコイツにとって想定外のこの事態に対する困惑と私と言う存在への恐怖と畏怖。


 そして、僅かな絶望。

 あぁ、その目! その恐怖と絶望に染まり始めた魂! 良いねぇ、ゾクゾクする!

 ふふふ、さぁもっと恐怖しろ! 私を畏れろ! そして……魂の底から絶望しろ!!


「ふふ、もう終わり?」


「っ!!」


 腐っても数々の死線を潜り抜けてきた歴戦の冒険者だしな。

 私との圧倒的な、絶望的な実力の差を感じ取って逃げる事を選んだか。


 おぉ、速い速い!

 死の危険を感じて、この大使館の調査は諦めて全力での逃走に切り替えたみたいだな。

 流石は六英雄! 並の者なら反応すらできない程の速度!!


「けど、無駄」


「なっ!?」


 逃走方向に回り込んだだけだけど……いやぁ、この顔! 楽しくなってきたわぁ!!


「くそっ!」


 あっ、また逃げた。

 ん〜、じゃあちょっとだけガスターに付き合って鬼ごっこと洒落込もうか!!


「どうなってやがるんだ! あの化けもっがぁ!?」


「ほっ!」


 ふっふっふ! 化け物とか失礼な事をほざいたから先回りしてお腹に回し蹴りをしてやったけど……気持ち良いっ!!


「がぁっ! げほっ、ぐぅっ……」


 何か苦しそうにのたうち回ってるけど……まぁ、自業自得だな。

 ぷぷ、ざまぁ!


「さぁ、鬼ごっこを続けよう。

 ほら、速く逃げろ」


 ふふふ、逃げたければ逃げればいい!

 さぁ、逃げろ! ただし……


「この私から逃げられるなら」

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