第138話 さぁ、始めよう
「どうやら、行ったようだな」
アクムス王国が王都フェニルに存在する
多くの人で賑わうフェニルでも有数の一流レストランの2階。
いわゆるVIP席となっているバルコニーの席に腰掛ける青年は、隠密スキルを使いながら魔国の大使館の中に侵入する男……ガスターの背を見送りつつティーカップを傾ける。
「そのようですね……」
青年の対面に座る少女は鋭い視線で既に姿が見えなくなったガスターが侵入していった魔国の大使館を見据え……ふっと目元が和らぐ。
「ふぅ、これで任務は無事達成ですね」
「あぁ、やっと肩の荷が降りた気分だ」
心底安堵した様子で緊張の息を吐き出す少女に青年は同意しながら再びティーカップを傾けて緊張で乾いた喉を潤す。
「エレナ、クリスティア達への連絡の用意を頼む」
「承知しました」
「さてと、とりあえず事前の予定通りガスターを大使館に誘導する事は成功した。
後は任せましたよ、レフィー様……」
先程までガスターと話していた青年……アクムス王国の現国王たるアラン・ジョン・アクムス。
そして彼の対面に座る少女。
アランと同じ若干18歳の若さにして近衛騎士団軍団長の地位に加えて総騎士団長の座すら務める若き天才。
グランツェ公爵が息女。
エレナ・グランツェの2人は、賑わう大通りの向こう側を。
若干の心配を含んだ苦笑いを浮かべつつ魔国の大使館に視線を向けた….
*
「ふふふ」
まっかせなさぁーい!
大船に乗ったつもりで、お昼寝でもしながら待っているがいいわっ!!
『ところで悪魔ちゃん。
ガスターを誘導って何の話なの?』
あぁ、そう言えばお前にはまだ説明してなかったか。
昨日開いた作戦会議!
私がお昼寝するためにミーシャと一緒に退出した後、皆んなで話し合ってガスターを確実に我が魔国の大使館に誘い込むために誘導する事になったらしい。
理由は確か……万が一にも王都フェニルの街中で私とガスターが衝突するなんて事態を避けるため、だったかな?
まぁ、とにかくガスターがフェニルに到着したら可及的速やかにこの大使館に誘導する事になったんだってさ。
『なるほどね……』
けどまぁ、皆んな心配性過ぎだよな。
何もしなくてもどうせ、ガスターはこの大使館に侵入して来ただろうに。
『いや、その判断は正しいと思うよ?
何か不足の事態が起こって、ガスターは大使館に潜入を断念。
結果、痺れを切らした悪魔ちゃんが街中で大暴れ……』
失敬な!
立派な大人の淑女たるこの私がその程度の事で、そんな非常識な事をするわけ無いじゃん!!
「レフィーお嬢様。
ターゲットを所定の場所に誘導、完了いたしました」
「ん、わかった」
まぁ、邪神にお仕置きするのはまた今度にして。
今はこっちに集中しないと!!
監視されてるとも知らずに今回のために創造しておいた広場……
私の神域をゆっくり壁伝いに移動してるとか……ぷぷ! バーカ! バーカっ!!
お前程度の隠密スキルなんてこの私には何の意味も無いわっ!!
「5年半、やっと……」
私を貶め、暴力を振るい、好きなように恥辱し、私の全てを! 大切なモノも人も全てを奪った
「ふふふ……」
ちょっと、はした無いけど別にいいよね?
何たってやぁ〜っと、この時が来たわけだし……うん、自然とニタァって口角が吊り上がるのも仕方ないわ。
ガスター、その身でもって、根源たる魂でもって思い知るがいい!!
「さぁ、始めよう。
楽しい遊びの……復讐の時間だ!」
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