第136話 凄い! 上手いっ!!

 他大陸から進出して来た悪魔が支配する謎の国家。

 悪魔王国ナイトメアに敗北を喫したとは言え、五大国の一角として世界にその名を知らしめる大国。


 商業と流通の中心地にして商人の聖地と呼ばれるアクムス王国。

 その首都たる王都フェニルに存在する建物の中でも有数の規模を誇る冒険者ギルドの応接室にて向かい合うのは2人の人物。


「それで、つまりは何が仰りたいのですか?」


 一人は言わずと知れた冒険者ギルド・アクムス王国王都フェニル支部が副ギルドマスター。

 古き良きいかにもエルフのイメージ通り貧乳……げふん、げふん! スレンダーな体型のクリスティア!!


「じゃあ、ハッキリ言おう」


 若干……と言うよりもかなり冷たい視線のクリスティアに対するは、救世の六英雄と呼ばれる一人。

 かつて勇者と共に魔王を討ち倒し、巨悪を滅ぼして世界を救った世界……人類最強の一角。

 冒険王の二つ名を持つSランク冒険者ガスター!!


「今回の一件、ギルドは手を出すな」


「貴方がこれからここ王都フェニルでする事を黙認しろ?」


「あぁ、そうだ」


「確認しておきますが、貴方はこれから何をしようとしているのか。

 その意味をしっかりと理解していらっしゃいますよね?」


 スゥッと細められるクリスティアの視線!

 一線を退いたとは言え流石は現役のSランク冒険者! 整った容姿と相まって凄まじい迫力だわ。


「彼の国は既にアクムス王国と国交を樹立し同盟を結んだ正式な一国家です。

 そんな悪魔王国の大使館を襲撃するなどと……」


「襲撃じゃ無くて潜入調査だ。

 尤も、場合によっては俺が潰す事になるかもしれねぇがな」


 もはや絶対零度とすら言えそうなクリスティアの視線を受けて、ガスターはニヤリと笑みを浮かべながら肩をすくめる。


「とにかくだ、アクムスの同盟国だったとしても、そんな事は関係ねぇ。

 悪魔王国ナイトメアは悪魔の王が支配する国、いつ民間人を殺すかもわからない魔物共の集団だ」


「……」


「しかも、国王が悪魔なんだぞ?

 5年半前、魔王の陰で暗躍し、人類を滅ぼそうとしていた悪魔の事は当然知ってるよな?

 そんな危険なヤツらをSランク冒険者としても、一個人としても放っておくわけにはいかねぇんだよ」


「しかし、彼の国の国王陛下のお話では悪魔族デーモンと言う種族自体が5年半前。

 貴方方に悪魔と呼ばれ、公開処刑された少女の怨念によってこの世界に誕生した種族との事ですが?」


「おいおい、まさかそんなくだらねぇ戯言を信じてるのかよ?

 それは魔物が、悪魔の王が言った事だぞ?」


「それはそうですが」


「まぁ、冒険者ギルドは多国籍機関とは言え一応は各国に所属している機関。

 国の判断には逆らえない。

 悪魔王国ナイトメアに敗北を喫したとは言え、五大国の一角であるアクムス王国と敵対できないって事は当然俺も理解している」


「でしたら……」


「だからギルドは今回の一件に手を出すな」


「どうしても、行かれるのですね?」


「あぁ、悪いがこれは俺がと話し合って決めた決定事項だ」


「っ! それはつまり……」


 クリスティアの言葉にガスターはニヤリと笑みを浮かべてみせる。


「まっ、そう言うわけだから傍観、よろしく頼むぜ?

 クックック、まぁ安心して待ってろ。

 悪魔の王が支配する悪魔王国なんてふざけた国はこの俺が潰してやるよ」


 要件は終わったとばかりに立ち上がり、余裕の表情で笑みを浮かべながらガスターが応接室を後にする。

 まぁ、今の一部始終も突然見てたわけだけど。

 とりあえず一つ言える事は……


「貴方に言われずとも、レフィー様に手を出すなと言われているのですから手出しなんてしませんよ」


 クリスティア凄いっ! 演技上手っ!!

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