第119話 その正体は……
「礼は必要ない。
我々の利害は一致していた」
「確かに私共は貴女様方のご事情を存じ上げません。
しかし、例え貴方様のおっしゃる通りだったとしても、それでも貴女様に……貴女様方に感謝を申し上げたいのです。
この度は我らアクムス王国をお救いいただき、誠にありがとうございました」
ふ〜む、なんかちょっと調子が狂うな。
グランツェ公爵を筆頭に一斉に頭を下げられてるけど……本当に今回の一件はアクムス王国のためとかじゃ無いんだけどなぁ。
まぁでも、感謝されて悪気はしない。
別に悪い気はしないってだけで、人間に感謝されても別に嬉しくは無いけど!!
それはもう全く! 全然嬉しく無い!!
『えっと……これはどういう事かな?』
よくぞ聞いてくれました! 今回だけは実に良いタイミングだったと褒めてやろう。
『……キミって本当に素直じゃ無いよね?』
は? な、ななな何の話かな!?
別にグランツェ公爵達に感謝されてちょっと嬉しかったとか、そんな事は一切無いしっ!
そもそも今の私は人間を憎悪する悪魔! 本当に嬉しくなんか無かったし!!
『はいはい、全く悪魔ちゃんはツンデレなんだから……それで、これは一体どう言う事なのかな?』
最初の方が小声で聞き取れなかったけど……まぁ良いか。
ふっふっふ! 知りたい? そんなに知りたい??
う〜ん、そこまで言うのなら仕方ない!
聞いて驚け!
さっきも言った通り、今回の一件は全て最初から私の掌の上だったのだよ!!
私の最終目標のためには、人間社会との交流が必須!
そんな訳で、この大陸で
事の始まりは人間達の住む安息の大地と呼ばれる大陸への外界進出にあたってシルヴィアが行った先行調査。
色々と情報を集めるついでに、我が悪魔王国のデビューを飾るに相応しい相手を探してもらった結果。
アルタイル王国と並ぶ五大国の一角、商業の中心地である海洋商業国家アクムス王国が浮上した。
ちょっと調べてみると出るわ出るわ、大罪の悪魔である私がちょっと引く程の悪事の数々。
横領に賄賂は当たり前、国王ピホッグを筆頭にもう清々しい程に腐敗した上層部。
しかも、私の処刑にも関与してるときた。
それからは上層部にて唯一まともだった宰相グランツェ公爵に接触して今回の一件。
アクムス王国との戦争なんていう茶番を計画して、ピホッグを抹殺しつつ鮮烈な大陸デビューを果たしたという訳なのだ!!
『うわぁ、今めっちゃ得意げな顔してたよ?
しかし、まさか最初から裏でアクムスの宰相と通じていたとはね……意外とやるじゃないか!』
ふっふっふ〜! でしょでしょ!
悪魔王国の名を知らしめ、復讐も果たし、商業の中心地と関係を作れて、ついでにグランツェ公達の願いも叶う。
本当に我ながら完璧な計画! もっと褒めても良いんだよ? と言うかもっと褒めろ!!
『凄い凄い!
それで、悪魔ちゃん達の狙いはわかったけど彼らの狙いは何だったのかな?
悪魔ちゃん達が国を救ったとか言ってたけど……』
なんか適当な感じがしないでもないけど……まぁ良いや。
グランツェ公爵達の狙いはズバリ! 国王ピホッグの抹殺!!
あの豚、酒池肉林の贅沢三昧の上に他国の商人やら貴族とも通じていたし。
まだ余裕はあったけど、あのままだとそう遠くない将来に他の五大国に呑まれて滅亡していたのは目に見えていた。
私達が国王ピホッグを葬って、国を救ったってのはそう言う事。
そして、グランツェ公爵達がピホッグの抹殺を狙ったのは国家存続のためだけじゃ無くて……
「私からも貴女様方に感謝を」
そう言って薄く笑みを浮かべながらグランツェ公爵達と共に頭を下げていた美青年。
「お初にお目にかかります。
私の名は……」
「ラーアン・グランツェ。
けど、それは仮の名前であり、本名は……」
「「「「「っ!!」」」」」
ふっ! 何やら驚いてるみたいだけど、当然調べてるに決まってるわ!!
今はグランツェ公爵の子供と言う事になってるみたいだけど……
「アラン・ジョン・アクムス」
その正体は5年前の魔王との戦争で戦死した賢王と名高かった先王の一人息子。
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