第107話 邂逅 その1
国土の多くを海に面した海洋商業国家アクムス。
商業の中心地、商人の聖地と呼ばれ。
この国で手に入らない物は無いとすら呼ばれるアクムス王国の首都フェニル。
海に面する海岸にて賑わう港は世界最大の規模を誇り、街には多くの商会や商店が立ち並ぶ。
緩やかな小高い丘の頂上には、フェニルの街並みを一望できる立派な王城が聳え立つ。
そんな活気に満ち溢れて、多くの人で賑わう街道を多くの騎士を引き連れた馬車がゆっくりと走る。
豪華絢爛。
一目で上位貴族かそれに準ずる存在が乗っている事が察せられる馬車の中……
「はぁ……」
金髪碧眼の幼い少年が外見に見合わない大人びた態度で僅かに目を付してため息をこぼす。
そんな将来は多くのご令嬢達を虜にするだろう少年に、隣に腰掛ける少女が声を掛ける。
「フィル様どうかしたのですか?」
「ん? いや何でも無いよ」
「むむ、ダメですよフィル様、また難しい事をお考えになっていましたね?
今は息抜きの時間なのですから、フィル様は難しい事は考えずに楽しんでください」
ビシッと論するように言い放つ少女にフィルと呼ばれた少年は柔らかな笑みを浮かべる。
「そうだね……うん、アリシアの言う通りだ。
せっかく国外に来たのだから、楽しまないと」
「ふふ、そうですよ!
せっかくの機会なのですから、楽しまないと勿体無いです!
そ、それにフィル様とお出掛けなんて滅多に無いですし……」
恥じらうように頬を染める少女。
フィルと同じくまだ幼く幼女と呼べる年齢ながらも非常に整った容姿の美少女であるアリシアは、恥ずかしさから逸らした視線をチラッと隣に座る少年へと向ける。
「プっ、ふふふ」
「むぅ、笑う事ないじゃ無いですか」
「ごめん、ごめん。
アリシアがあまりにも可愛かったからつい」
「かわっ」
柔らかな微笑みを浮かべるフィルにアリシアの顔が真っ赤に染まる。
「フィル様……あまり揶揄わないで下さい」
「僕は事実を言っただけだよ?」
「うぅ……」
柔らかな微笑みを浮かべるフィルと、恥じらうように頬を赤く染めるアリシアの視線が交わり……
「こほん、お2人とも私も同乗しているのですが……」
2人の対面に腰掛ける、メイド服に身を包み苦笑いを浮かべた女性の言葉にアリシアの動きがビシッと固まる。
対面に座っていた侍女の事を忘れてしまっていたことに対してか、侍女に見られていた事に対してか。
はたまたその両方か、アリシアの顔がゆっくりと真っ赤に染まって行き……
「ご到着したようです」
侍女の言葉と同時に場所が止まる。
「もう少し可愛いアリシアを見ていたかったけど……仕方ないね。
さぁお嬢様、参りましょうか」
「は、はぃ……」
外から軽装の騎士が開けた扉からフィルにエスコートされ、消え入りそうな声で下車したアリシア。
そんな2人の随行している美女、護衛兼アリシアの侍女であるエリーは……
「お2人とも早熟すぎですよ。
これでまだ5歳だなんて……」
凛と澄ました顔をしながら、誰にも聞こえない程度の声でポツリと呟き。
見ている私の方が恥ずかしくなってしまいます! と内心愚痴を漏らしながら2人の後を追い……
「っ!!」
目的地である首都フェニルで最高級の品質と信頼を誇るジュエリーショップに足を踏み入れた瞬間。
その存在に、白銀の髪をした少女に息を呑む。
この店にいる事から貴族か大商人の息女だとは思われるがそれだけ。
特に危険は感じないし、魔力も感じ取れない。
脅威でもなんでも無い普通の客と変わらない、ただの普通の少女。
なのに……そのハズなのに。
店に入った瞬間から……その少女を視界に入れた瞬間から、視線が釘付けにされたように動かせず。
手足には震えが走り、全身から嫌な汗が滲み出す。
「エリー? どうかしましたか?」
店に入った瞬間から動かないエリーにアリシアが不思議そうに声を掛けるも、応える事も出来ずにただ唖然と硬直するエリーの視線の先で……
「ふふ」
少女が笑った。
「っ!」
「エリーっ!」
膝から崩れ落ち、まるで首を絞められていたかのように激しく咳き込むエリーにアリシアが駆け寄り……
「……この程度なら問題ないか」
護衛の騎士達が騒然とし剣に手をかけ周囲を警戒する中、まだ少し幼さを残す凛とした声が鳴り響き。
「この子が……ふふふ」
輝くような白銀の髪の少女が、軽く笑みを浮かべた。
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