第86話 竜神の実力

「っ!」


「ちっ!」


 今のを避けるとは……

 自身の魔素を用いて創り出す魔刀での一閃。

 首を刎ねてやるつもりだったのに頬を掠めただけどは、流石は神って言ったところか……


「小癪なっ!」


 グランの時とは違って今のは紛れも無い本気だったのに!

 軽く避けやがってぇ〜! ムカつく!

 絶対に切り刻んで血祭りに上げてやるっ!!


「む……」


 動けない。

 そう言えばシルヴィアに抱っこされたままだったわ。


「シルヴィア、離して」


「なりません。

 レフィーお嬢様、落ち着いて下さいませ」


 むぅ、やっぱりそう簡単には離してくれないか……ならば! 実力行使に出るのみっ!!

 確かにシルヴィアも私と同じ最上位悪魔で魔法に精通しているとは言え……


「あっ、お嬢様っ!」


 ふっふっふ! いかにシルヴィアと言えども、付与魔法を使えばこんなもんよっ!!

 私のユニークスキル〝付与魔法〟はその空間に存在する魔素に干渉して世界を書き換える力。


 つまり! 言ってしまえば、私が思い描いた事を現実とする力という事。

 私自身がシルヴィアの腕の中ではなく、頬から一筋の血を流す竜神の目の前にいるように世界に干渉して書き換えれば……


「っ!!」


 この通り、次の瞬間にはシルヴィアの腕の中から竜神の……ファルニクスの目の前に!


「死に晒せ」


 ファルニクスの方が身長が高いから物理的問題で必然的に見上げる格好になるのは癪だけど……

 すぐに切り刻んで地面に這いつくばらせてやる!


「突然どうしたのですか?

 何か気に触る事を言ってしまいましたか?」


 何か気に触る事を言ったかって?

 あぁ、言ったとも! 竜神ファルニクス、お前はたった今私の逆鱗に触れた。

 例えお前がこの世界の管理者たる神だったとしても……血祭りじゃぁっ!!


「しかし、この私に傷をつけるとは……貴女がグランに勝ったと言うのも納得ですね」


「チッ!」


 余裕で易々と連撃を避けてくれやがって……悔しいけど、コイツめちゃくちゃ強い。


『神なんだから当然だよ。

 いくら悪魔ちゃんでもまだまだ神には及ばな……』


「申し訳ないが、煽るのはやめていただきたい」


『あはは、ごめんごめん。

 ファルニクスくんもこう言ってるし、私は大人しく観戦してるよ。

 あぁ、そうだファルニクスくん、私の事は邪神と呼ぶように。

 じゃあ悪魔ちゃん、頑張ってね!』


 煩いわ! 鬱陶しい、黙って見てろっ!!

 くっそぉ〜、私が本気で攻撃を仕掛けてるのに普通に会話なんてして……!


「さてと、そろそろ機嫌を直して欲しいのですが……」


「死ね!」


「少し落ち着いて下さい」


 本気の一撃が受け止められた。

 それもドラゴンの……古竜王であるグランの鱗すらも容易く切り裂く魔刀の刃を素手で掴んで……


「この……!」


 本気で力を込めてるのにピクリとも動かない!

 素手で……指先で刃を挟んで止めるとか漫画かよ! この化け物め!!


「貴女もわかったでしょう?

 今の貴女では私には勝つどころが勝負にもなりませんよ」


「っ!」


「気分を害してしまったのなら謝ります、ですのでここらへんで刃を収めてくれませんか?

 久しぶりに招いた客人を……貴女を傷付けたくはない」


 傷付けたくない?

 確かに私の剣撃は一切通用しなかったけど……その程度でもう、この私に勝ったつもりか?


 本気で殺す気ではいたけど、神だし首を刎ねたくらいで簡単には死な無いだろうし。

 ちょっと切り刻んでストレス発散の血祭りで許してやろうと思ってたけど……



「っ!?」


 〝動くな〟と言う命令を付与されたファルニクスが硬直して動きが止まる。


「虚無ノ太刀」


 身動きの取れ無いファルニクスの首めがけて横一線に新たに創り出した刀を振り抜き……


「くっ……」


 避けられたか。

 ユニークスキル〝付与者〟での拘束がこの数瞬足らずで弾かれるとは……ふふふ、面白い!!


「この私に2度も傷を……全く、貴女は何者なんですか?」


 転生したての頃は弱過ぎて逃げる事しかできなかった。

 でもシルヴィアの手助けを得て、多少力を付けた時にはオークキングでもぶっちゃけ雑魚と大差なかった。


「私はレフィー」


 この間の戦争でも鬼王ヴィゴーレと死王ゲヘディは相性的に敵じゃなかったし。

 グランとの戦いでも眷属にしたかったから本気ではあったけど死力を尽くしたって感じじゃ無かった。


「転生者にして元公爵令嬢であり」


 けど、コイツは強い。

 今の私が本気で! 死力を尽くしても勝てないと思える程に……遠慮無く全力をぶつけられる程にっ!!


「原初の悪魔」


 ふふふ……言い知れぬ高揚感に自然と頬が緩む。

 この高揚感に身を任せて力を……思い付きはしたものの、危なくて試す機会がなかった魔法の1つを解き放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る