第85話 例え神でも……許さない!

 目優しく周囲を照らす太陽の光に、心地いい風が吹き抜ける美しい草原。

 透明度の高い川が流れ、奥の方にある大きな湖の辺りには立派なお屋敷。


「……」


 何か思ってたのと違う。

 神域って言うからもっと真っ白な空間的なテンプレ空間だと思ってたのに……


『キミね、神と言っても生きてるんだよ?

 そんな場所で生活なんてする訳ないでしょう』


 まぁ、確かにそりゃそうだろうけど。

 それならもっと火山みたいなところで巨大なドラゴンが鎮座してるとか色々あるじゃん!

 それなのに普通に草原にお屋敷って……


 まぁ竜種ドラゴンであるグラン達も基本的に人の姿だし、竜神もそうであっても全然不思議じゃない。

 竜神のドラゴン形態を見れないのはちょっと残念だけど……まぁそれは仕方ない。


 今日は別に遊びに来たわけじゃないし、ましてや竜神を見に来たわけでもない。

 今回の竜神訪問はしっかりとした目的がある、悪魔王国ナイトメアとしての歴としたお仕事!! だから……


「あの、シルヴィア……」


「はい、レフィーお嬢様。

 如何なさいましたか?」


「もう下ろして欲しい」


 当然のように現在進行形で抱っこされてるけど…… これから竜神と会うわけだし。

 そろそろ本当に下ろして欲しい。

 

 ただでさえ不本意ながら幼児体型気味なせいで幼く見られるのに、抱っこまでされてるとなけなしの威厳が消滅する。

 今の私は仮にも一国の女王なわけだし、見た目のせいでナメられる訳にはいかない。


  それに初対面でメイドに抱っこなんてされてたら流石に相手に対しても失礼だし。

 とにかく! 断じて抱っこされてるのをこれ以上初対面の人に見られるのが恥ずかしいとかじゃないけど、竜神に見られる前にこの状況を脱し……


「皆さん初めまして。

 私の名はファルニクス、竜神と呼ばれている者です」


 僅かに魔素が揺らぎ草原に降り立った存在が柔らかな笑みを浮かべる。

 この僅かながら感じられる膨大な魔素量エネルギーの片鱗……流石は神と呼ばれるだけはある。


 それにこの容姿。

 確かにグラン達、竜種は美形揃いだけど……薄らと輝くようなプラチナブランドの髪に金色の瞳。

 完成された美とも言うべき美貌。


 他国にすらそのルックスで名を轟かせたクズ勇者何て比較にならないイケメンなのはまぁいいとして。

 問題なのは、そのイケメンとガッツリ目が合っちゃってると言う一点のみっ!


「……」


 はい、たった今、私の威厳は木っ端微塵に砕け散ったわ。

 やめて! これ以上こんな子供みたいに抱っこされてる所を見ないでぇっ!!


「お久しぶりです。

 ファルニクス様」


「ん?」


 よし! よくやったグランっ!!

 グランのおかげで竜神の……ファルニクスの視線が逸れた。


「もしかして……お前、グランか?」


「左様でございます」


「……」


 おぉ、あの神の如き美貌がポカンと口を開けて呆けてる。

 まぁ、グランの変貌ぶりを見れば、そうなる気持ちもわかるけど……


「いや、まぁうん。

 お前にも色々とあったんだろうけど、この神域に来るなり私に勝負を挑んできたお前がここまで丸くなるとは……」


「今の私は我が主人であるお嬢様の眷属にして執事。

 命を削るような勝負に飢えていたあの頃とは違います」


 ちょっと前までのグランを知ってたら、誰だお前ってなるよね。


「グラン様……」


 グランの右腕たるアーグベルですら未だにちょっと戸惑って……


「まさか竜神様に勝負を挑むなんて暴挙をしていたなんて……!」


 いや、驚くのそこかよ!?

 もっとグランの激変について思うでしょう!!


『いや、普通に考えて神に喧嘩を売った方が遥かに驚愕に値するんじゃないかな?』


 何言ってんの?

 たった1週間足らずで一国の王だった存在がシルヴィアと同等の執事になったんだよ?


『まぁ確かに、そう言われるとそれはそれで若干の怖さがあるけど』


 でしょ! ふん、邪神も少しはわかるようになって来たじゃんか。


「しかし古竜王たるグランが敗北するだけでも驚きなのに。

 グランを降し、眷属にするなんて……それもこんなにも可憐な幼女が……」


「……今なんて?」


 私の聞き間違いじゃなかったら、今私の事を幼女って……


「レ、レフィーお嬢様、落ち着いて下さい!」


 は、ははは……幼女? この私が幼女ねぇ……言ってくれるじゃない!

 人が気にしてる事をっ!

 例え神でも関係ない! コイツは絶対に許さない!!


「殺してやるっ!」

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