第67話 同類だっ!!

「はぁ……むぉ!」


「ご主人様! 竜王との闘いお見事でした!

 それでお怪我は!? どこか痛いところはありませんか?」


 こ、この感覚は! このむにゅっとした感触は……ミーシャのおっぱいっ!!

 くっ、凄まじい破壊力……グランとの闘いが終わったと思ったらまさかこんな伏兵が!!


「う、うん、大丈夫だよ……」


 ははは、たった今、精神的に結構なダメージを受けたけど……


「ふふふ、お疲れ様でした」


「シルヴィア」


「ミーシャもそろそろレフィーお嬢様を解放して差し上げて下さい」


「うぅ、こ、これはですね。

 ご決して私がご主人様を抱きしめたいと言う邪な気持ちは……多少ありますけど。

 竜王との戦闘で傷付いたご主人様が心配で……それにご主人様がこうされる事を望まれているような気がしたのです!!」


 そ、そんな目で見られても……


「……」


 よし、とりあえず無言で視線を逸らしとこ。


「うぅ、酷いですご主人様まで……」


「さ、こちらへどうぞ、レフィーお嬢様がお好きなケーキとココアをご用意しましたよ」


「う、うん」


 背後でミーシャが泣きべそをかきながら、めっちゃいじけた感じで地面を指でつついてるけど……放っておいていいのかな?


「ふふふ、ミーシャなら心配ありませんよ。

 アレは本気ではなく、ちょっとふざけているだけですので」


 そ、そうなんだ。

 まぁシルヴィアがそう言うなら大丈夫なんだろうけど……後で慰めてあげよう。


「それよりも、レフィーお嬢様は大丈夫ですか?」


「ん?」


 大丈夫とは?

 怪我なら大丈夫ってさっき言ったと思うんだけど……


「グランの事を気に入っていらしたのでしょう?」


「……」


「そんなグランの首を自らの手で落としたのです。

 レフィーお嬢様はお優しい、大丈夫だったとしても何も感じないわけでは無いのに……」


「シルヴィア……」


「頑張りましたね」


「ん」


 本当、シルヴィアはなんでもお見通しだなぁ。

 昔から辛い時はこうしてそっと抱きしめてくれたっけ……


「あぁ〜! シルヴィア様がご主人様を抱きしめてるっ!!

 うぅ、私は怒られたのに……シルヴィア様ばっかりずるいですよ!

 私にもご主人様を抱きしめさせて下さい!!」


 そう言うや否や、ミーシャが嬉しそうにお腹に顔を押しつけて頬ずりして来る。

 抱き締めるって言うよりは抱き付いてるって感じだけど……まぁ良いか。


 いつもは凛々しくてキリッとしてるのに、こう言うところは懐いてるツンデレなネコちゃんだわ。

 むふふ、めっちゃ萌える! もうネコ耳と一緒に頭をナデナデしちゃうっ!!


『美しき主従愛かな。

 まぁ周りに竜王の死体と、氷の柱に閉じ込められるその配下がいる結構カオスな状況だけど……』


 現状の解説ありがとう。

 まぁでも、確かにゆっくりする前にこの状況をどうにかしないと。


 後々の事を考えると人手もほしいし、何より面倒だからグランの側近達とは敵対したく無いんだけどなぁ……

 う〜ん、果たしてこの状況グランの死体を見て、上手くいくかどうか?


 うん、全く自信がないわ。

 けど何時迄もこうしてるわけにもいかないし、自信がなくてもやるしかない。

 まっ、厳しそうならシルヴィアいるし! まぁ、何とかなるか!


「解けろ」


 ボス部屋を覆っていた氷を消し去り、グランの側近達を解放する。

 すると当然、側近達の目には地面に横たわる首が落とされたグランの亡骸と、最初のように玉座に座る私が飛び込んでくるわけで…… グランの側近達のエネルギーと殺気が膨れ上がった。


「はぁ……」


 まぁ当然こうなるよな。

 仕方ない、自信は全くないけど頑張ってみるか!!


「そう睨むな。

 グランの側近達、お前達に話がある。

 殺り合うのはそれからでも遅くない、違う?」


「……いや、申し訳ありません」


 えっ、嘘でしょ!!

 ここで断られたら私の作戦が根本から消滅するんですけどっ!?


「そもそも、これは貴女とグラン様の闘い。

 その結果を受けて我らが貴女を憎むのは間違っていると我ら自身も理解しているつもりです。

 それにも関わらず不躾な視線と感情を向けてしまった事、謝罪します」


 えっと……これはどう返せば良いのかな?

 確か今喋ってるのって、私の邪魔をした時にグランに謝ってた人だよね?

 他の人よりも上の立場なのかな……って今はそれどころじゃ無い! と、とりあえず頷いたこと。


「ん」


「貴女のお話を伺いましょう。

 その代わりと言ってはなんですが、グラン様の最期をお聞かせ願えないでしょうか?」


「わかった。

 じゃあお前達を外に送る前にグランの最期を教える」


「感謝します。

 それで、お話というのは?」


 何かわからんけど話が上手くいった! 後でシルヴィアとミーシャに自慢しよっ!!


「ん、実は……」








 *








 いやぁ、話が上手く纏まってマジで良かったわ。

 側近を代表して話してた人、グランの右腕だったアーグベルも話がわかる人だったし!


「じゃあ、地上まで送る」


「本当に貴女様には感謝しかありません。

 改めましてお礼申し上げます」


 何故か側近達に跪かれてるけど……まぁ、この際細かい事は気にしないでおこう。


「ん、シルヴィア」


「かしこまりました」


 その瞬間、一切のラグ無く瞬時に視界が切り替わる。

 もはやグランの側近達も苦笑いしてるし……流石はシルヴィア! さすシルだわ!!


「では、また後日正式にご挨拶に参ります」


「わかった。

 じゃあ、またね」


「はっ! 失礼いた……」


「貴女がレフィー様?」


 アーグベルの声を遮って幼さを残す凛とした声が鳴り響き、美しい黒い髪に整った容姿をした少女が姿を現す。


「初めまして、私はミリア。

 四魔王が一柱、血王って呼ばれてる吸血鬼です」


 四魔王、血王ミリア……


「ど」


「ど?」


「同類だっ!!」


 我ながら珍しく出た大きな声は、やけに荒野に響き渡った。

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