第53話 ショータイムだ!

 既に日も陰り、月光が大地を照らす頃。


『喜べ、ヴィゴーレの次は……第二の生贄はお前だ』


 何も無い荒野に臨時的に築かれた本陣。

 禍々しくも幾多もの骨で構築され、死王を筆頭とした存在が円卓を囲むその場において、幼さを残す可憐な声が響き渡った。


 その声に。

 その言葉に、円卓を囲む者達の間に一気に緊張が走る。

 誰もが息を殺したように黙り込み、のし掛かる重圧に固唾を飲みながら自らの王に視線を向ける。


「……が」


「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」


 苛立ちと共に発される猛烈な殺気と魔力。

 吹き荒れる膨大な魔力の奔流が本陣の天井を吹き飛ばし、顕になった月光が円卓を照らす。


「小娘風情が……我が遊びを見抜いた程度でこの私を、死王ゲヘディを愚弄するか。

 よかろう、ならばその矮小なる身に我が魔導の真髄を見せてやろう」


 その身に纏う禍々しき圧倒的な魔力。

 まさしくと魔王と呼ぶに相応しい死王ゲヘディの姿に、この場に居合わせた配下達が一斉に膝を付き頭を垂れる。


「皆の者、遊びは止めだ。

 全兵達に通達を」


「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」


「今より敵の拠点を攻め滅ぼす!

 我が圧倒的な魔力と魔導が真髄の前にひれ伏せてやろう」


「へぇ」


 王の、死王ゲヘディの言葉に答えるように突如として響き渡った声。

 先程のモノと同様に幼くも可憐な声に跪いていた全員が弾かれたように顔を上げ。

 ゲヘディも咄嗟に背後を振り向き……


「魔導の真髄。

 それは楽しみ」


 月を背に宙に浮かぶ存在に。

 白銀の髪を靡かせ、僅かに口角を上げる美しく可憐な少女の姿に全員が驚愕に目を見開いた。












「魔導の真髄。

 それは楽しみ」


 この世界に存在する全種族の中でも最も魔力との親和性が高く、魔法の権化とも言える悪魔をひれ伏させる魔導の真髄。

 是非とも見せて欲しい……って、なんで全員して間抜けな顔してるんだろう?


「何故貴様がここにいる?

 この周囲には強力な結界が張られていたハズ……」


 強力な結界?

 あぁ、そう言えばシルヴィアが転移魔法を使う時になんか言ってたような……


「あの低レベルな結界なら解除させていただきました」


 そうだった、低レベルなやつがどうとか言ってたわ。

 シルヴィアにはあの使者殿の後始末と仕込みを頼んでおいたんだけど……


「全て恙無く完了致しました」


 流石はシルヴィア、仕事が早い。

 と言ってもまぁ、そんな大した事は頼んで無いけど……じゃあ、いっちょショータイムといきましょうか!!


 パチンっ!


 指を鳴らした瞬間。

 このゲヘディの本陣と軍勢を遮断するように氷の壁が出現し、この本陣を閉じ込めて完全に外部と遮断する。


 薄いけど凄まじく強度の高いミーシャ特性の氷の障壁のおかげで、鬱陶しい大軍勢とも分離できたし。

 薄いから月光のおかげで十分に明るい。

 と言うか水の中にいるような水色の空間が逆に神秘的で良い!!


 策略には策略を!

 まぁ、咄嗟に思いついたからやってみただけだけど。

 取り敢えず思いの外良い音が鳴ったし、多分カッコ良かったから非常に満足!

 じゃあステージも整った事ですし。


「始めようか」

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