第14話 美味しいご飯!

 エルダーリッチが……神話生物にして、私を殺そうとした。

 あの骸骨が、私のご飯かぁ……


「お嬢様に許されざる無礼を働いたゴミですが、仮にも神話に語られる魔物です。

 食材としては最上級かと」


 シルヴィアさんは、そう言うけどさぁ。

 外見はリアルホラーな骸骨だよ? コレを食材としては認識するのは流石に難しい……ハズなんだけど……


「確かに、美味しそう……」


 自分で言っていて信じられないけど、あの骸骨が! エルダーリッチさんが美味しそうに見えるんですけどっ!?

 いや正確に言えば、エルダーリッチがと言うよりその魂がか。


 昨日はそんな事なかったのに、自覚してしまったからには仕方がない。

 認めよう!

 アレを食材と……豪華なご飯だと認識してしまっていると!!


 この凄まじいエネルギーの波動を感じさせる、眩く光を放つ濃密な魂。

 例えるならば、たとえ王族であっても入手不可能といわれる古竜の肉。


 それも最上級の部位を使われた極上のステーキ!

 コレ程のご馳走を目の前にして、果たして食べずにいられようか?

 断言しよう! そんな事は不可能だとっ!!


「っ!」


 ん? いきなり簀巻き状態のエルダーリッチが身動いだ。

 まぁ何でもいいけど。

 エルダーリッチがめっちゃガン見してくるけど気にしない!


「お嬢様……ゾクゾクいたします!」


『エルダーリッチを前にして、邪悪に微笑みながら舌舐めずりする幼女……凄い光景だなぁ』


 外野が何やら言ってるけど、目の前のご馳走以外は目に入らない。

 元公爵令嬢として、はしたないって気持ちはあるけど……コレが悪魔の本能か。


『いや、違うと思うよ?

 現に悪魔ちゃんと同じ悪魔であるシルヴィアは、悪魔ちゃんに夢中でしょ?』


 じゃあ何か? この私が食い意地を張ってるとでも??

 ふ、ふふ、ふふふっ……ここまでバカにされて、コケにされて、貶められたのは初めて……でもないか。

 そういえば私、昨日訳のわからん冤罪で、それも惨い仕打ちを受けて殺されたばかりだったわ。


 まぁ、私が食い意地を張っているってのは、邪神の勘違いな訳だけど……私もシルヴィアも欲望に忠実になってるのも事実。

 けど悪魔って精神生命体な訳だし、欲望に忠実になるのは当然か。


 うん、つまり私がエルダーリッチを美味しそうって思うのは、謂わば種族特性なのだ!

 悪魔としての本能がエルダーリッチをご馳走って認識してるんだから仕方がない! 邪神が何と言おうが、仕方ない事は仕方ない!!

 そんな訳で早速……


「さぁ、お嬢様! どうぞ召し上がってくださいませ!!」


「ん」


 この世界では人間でも、魔物でも、力のある存在と戦かったり、自身で鍛錬を積んだりする事で強くなる。

 今の私の認識としては、レベル制度はないけど経験値はあるって感じかな?


 鍛錬は言わずもがな、敵と対峙して戦闘する事によって経験値を獲得する事ができる。

 そして経験値が最も得られるのは、戦いに勝利して敵を殺した瞬間。

 前まではそれが常識だったし、特に何とも思ってなかったけど……


 魂を見る事ができ、直接干渉する事ができる悪魔となった今、その仕組みをなんとなく理解できる。

 恐らく生命を殺し、その魂の一部を取り込むことによって経験値として換算される。

 それが、この世界の仕組み。


『ご名答!

 まさか転生して2日目にして、ここまでこの世界の真理に近づくとは!

 流石は私が見込んだ悪魔ちゃんだ!!』


 この世界の真理、ね……まぁ今はいいや。

 それよりも今はコッチが優先!

 シルヴィアは言った、悪魔は魂を食す事で飛躍的に成長できると。


 それが意味する事はつまり……本来ならば魂を経験値へと変換する過程で消失する経験値をすべて! 消失させる事なく得る事ができるという事なのでは?

 まぁ、食べてるんだから当然っちゃあ当然だけど。


 ここで重要なのは、魂を経験値へと変換する過程で消失するエネルギーはどれ程の割合なのか? という点。

 そしてシルヴィアが飛躍的にと言うからには、おそらく5割程度ではないハズ……


「ふふ」


 本来なら、今の私では手も足も出ない。

 殺されずに逃げるのでさえ、運任せになるような強者だけど……既に瀕死な上に簀巻きにされてるこの状況なら、私でも十分に殺れる。


「ひっ!」


 昨日はあんなに恐ろしかったエルダーリッチが、情けない悲鳴を上げた。

 眼窩に浮かぶ、その赤く揺らめく光に宿るのは明確な恐怖の感情。

 神話生物にすらこんな反応をされるなんて、果たして今私はどんな表情をしてるんだろう?


 怯えるエルダーリッチへと手を翳し……握り締めて軽く引く。

 その瞬間──怪訝そうに私を見ていたエルダーリッチが断末魔すらなく、人形の糸が切れたかのように事切れる。


 掌の上に浮かぶは、私の頭程もあろうかという白い塊……エルダーリッチの中から引き抜いた魂!

 ヤバイ! めっちゃ美味しそうだわコレ!!


 こんなバカでかい魂、どうやって食べれば良いのかイマイチわからんけど……もう我慢できない! したくない!!

 てな訳で早速……


「いただきます!」


 エルダーリッチの魂にかぶり付く!

 ふむふむ、なるほど。

 飲み物みたいに飲むことができるって訳ね!!


 魂が経験値へと変換される過程で消失するエネルギー。

 もし仮にその消失率が8割だったとすると、私の成長率は単純に計算しても5倍!!


『惜しいね。

 その過程でのエネルギー消失率は約9割だよ』


 そんな邪神の言葉を聞きながら、エルダーリッチの魂を飲み干し……



『ぴろん!

 対象の総魔素エネルギー量が限界を突破しました!

 これより、対象の進化が開始されます』

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