第8話 それって、どんなハードモード!?

 洞窟内に私の叫び声が虚しく反響する。

 強制転移か爆発かは知らんけど、何らかの罠が発生して私は見るも無惨な姿に……


「あれ? どうもなってない?」


 ……ヤバイ、罠だって叫んじゃったよ! 私、めっちゃ恥ずかしいじゃん!!

 で、でもさぁ、 あの状況じゃあ誰でも同じ反応するよね?


 うん、普通はするわ。

 だから私が叫んだのだって、至って普通の言動なのだよ。

 恥ずかしがる事なんて何もないっ!!



『ダンジョンコアへの登録が完了しました』



 なん、だと……! ダンジョンコアに登録って事は、つまり……

 い、いや、まだそうと決め付けるのは早計というもの! まだ最悪の事態になったと決まった訳じゃな……



『ぴろん!

 称号・ダンジョンマスターを獲得しました!』



「と、とりあえず解析!」




 称号 : ダンジョンマスター

 ダンジョンコアの所有者にして、ダンジョンを統べる存在に贈られる称号。

 ダンジョンマスターは、ダンジョンコアが破壊されると連動して死亡する。




 ……確かに、ファンタジーではお馴染みだけど!

 ダンジョンマスターはコアと一心同体で、コアが破壊されると自身も死ぬって!

 こんなの罠と一緒じゃんっ!!


「最悪……」


 数々の作品において、ダンジョンマスターはダンジョン内において様々な権能を持ち、圧倒的な力を誇る。

 魔王城がダンジョンで、魔王がダンジョンマスターという設定は最早テンプレといっていい……


 けどさぁ! それってダンジョンが広大だったり、マスター自体が強い事が前提なわけよ!

 こんな洞窟のダンジョンマスターって、コアという名の足手纏いを背負っただけでしょ!!


『まぁまぁ、そう怒らないでよ。

 これは必要なプロセスなんですよ? 悪魔ちゃん』


 必要なプロセス? 何を訳のわからん事を。

 てか、誰が悪魔ちゃんじゃっ!

 天の声さん、ついに壊れちゃったんですか? これも神様の嫌がらせですか?


「神のくせに、この程度も管理できないって……」


 どうせ今もこの状況を見ているだろうし、嫌味も言いたくなる訳よ。

 罠に嵌められ、コアという大き過ぎる荷物を背負わされたし……


 うん、私には神に文句を言う権利がある!

 だって、エルダーリッチは不可侵領域とか言ってたけど、こんな安全かどうかも不明な場所でゴブリンでも現れたら私普通に死ぬよ?


 か弱い乙女である私は何もできず、ダンジョンコアを壊されて昇天する。

 それならまだ良い。

 最悪の場合はゴブリン共に犯され、輪姦され、苗床に……


「いや、本当にないわ……」


『悪魔ちゃん、キミ何か勘違いしてないかな?

 今キミに話しかけているのは、天の声システムじゃなく……神様、本人なのだよ!!』


 ……コイツが元凶かっ!

 何か偉そうに宣言してるけど……うん、殺意しか湧かない。


『キミと直接話をする為には、こうするしかなかったんだ』


「何の用なの?」


『実はキミを転生させた神からの要請と、私としても面白そうだから少し手助けをと思ってね。

 哀れなキミに、ちょっとした情報をあげよう』


「情報?」


『そう、情報。

 キミにはやって欲しい事があるし、仲良くしたいと思ってるからね』


 私を卑劣な罠に嵌めたくせに仲良くって……

 悪意の塊のような邪神が、何をいけしゃあしゃあと訳のわからん事を言っているのやら。


『悪魔であるキミに、悪意の塊とか言われたくないね』


 私の思考を読んでるっ!?

 いやいやいや! そんなチートは流石にないでしょ……


『それがあるんだよね。

 何せ私は邪神だからね、ちっぽけな悪魔ちゃんの思考を覗く程度は容易にできるよ』


 ムカつくけど。

 本当に! マジで! 殺意が湧くほどにウザいけど……流石は神か。


『キミ、自分が邪神とか呼ぶ相手に、良くそこまで言えるよね?

 まぁ面白いから別に良いけど。

 それじゃあ! 邪神たるこの私から、お得な情報を2つ程教えてあげよう!!』


 どうでも良いから、早く言って欲しい。

 ぶっちゃけ、色々と情報過多すぎてもう面倒なんだよね。

 むしろ情報はいいから寝具が欲しい、特に最高級マットレスのベッドが心底欲しい。


『コホン、では一つ目の情報。

 キミは殺された直後に、同じ世界の違う座標に悪魔として転生した。

 よってキミを嵌めた聖女も、キミを捨てた勇者やその他の人々も、当然同じ世界にいるよ』


「……」


『二つ目の情報は、今キミがいるのはキミが殺された大陸とは違う大陸だという事。

 そこは終焉の大地と呼ばれる大陸でね。

 キミがさっき殺されかけたエルダーリッチは勿論、それ以上に強大な魔物達も跋扈する魔境』


 一つ目の情報はまぁいい……けど、二つ目の情報。

 それはちょっと待て、強大な魔物とか聞き捨てならないワードがあった気が……


『その場所は特別だから、今は魔物達が入って来ることはないけど……

 まぁ、面白そうなら、またご褒美をあげるから頑張ってね』


 あっ、一方的に連絡を切りやがった。

 てか! 入って来ないけど何っ!? 今はって何っ!?

 本当になんて場所に転生させてくれてんの!?


 あのエルダーリッチと同等か、それ以上の化け物が蔓延ってるって……しかもダンジョンコアという名のおまけ付。

 それって、どんなハードモード!? もう実質詰んでるって事ですよね……


「……いつか絶対に、ぶん殴ってやる」

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